オルタナティブ・ブログ > 読むBizワクチン ~一読すれば身に付く体験、防げる危険~ >

商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

奇妙な食事 峠のカレー

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奇妙な食事 峠のカレー 

食事の前には、昼食、夕食に関わらず、絶対に読まないでください!
と、言ってもよむだろうなあ...。

カトマンドゥには、すごくたくさん日本食レストランがある。
もちろんどのレストランにも日本人がいるわけではない。日本風の食事を出してくれるレストランまで含めると、カトマンドゥだけでも、インド全体の日本レストランの数よりも多い。そして、値段も比較的安い店が多い。

 駐在していた私も、頻繁に日本食レストランで食事をしていた。同じ店の中には、バックパッカーの若い男女が集まっていることもある。

 隣の席の女性二人も、バックパッカーだ。インドに向かうことを、ちらっと小耳に挟んだ。
「あなた方は、これからインドに行くのですか」
「そうです」
「バスで行くのですか」
「明日、出発します。ニューデリーまでバスです。2日か、3日掛かるのですが、出発時間しか聞いていません」と笑っている。
「旅行中の食べ物や飲み物は準備しましたか」
「ミネラルウォーターはたっぷりと準備していますが、食べ物は途中で食べますが。料理して、加熱してあるものなら、大丈夫でしょう。どこもカレーですね」
「ああ、それなら、食べ物もたっぷりと持って行きなさい。峠のカレーの話はご存じですか」
「いいえ」

 私が、ネパール語を学んでいる時に、ネパールの新聞に出ていた記事を、学びながら訳した話を思い出した。
 ネパールからインドに向かうには、飛行機でひとっ飛びか、たった一本の山の中をくねくね通っている道路で、数日掛けて、バスや車で向かうかしか、方法はない。

 バスでは、少なくとも一晩、多くて数日、バスに乗りっぱなしという状態だ。もちろん、バスの事故は極めて多く、毎年バスが何台も谷底に落ちて、乗客全員が亡くなる事故が起こっている。交通事故の怖さは、横に置いて、バス旅行の食事のことだ。

 バスは、運転手の都合、運転手の疲れ具合、運転手のトイレ休憩、運転手の腹の減り具合で決まるが、夜がどっぷりと暮れた峠に差し掛かると、運転手は一軒のお店に停車する。

「はーい、みなさん、ここで夕食を食べてください。トイレも済ませてください」と、そのお店に入っていく。その店以外には、まわりには全く店が無い。店に入ると、食事のメニューは1種類だけ。カレーだ。運転手は奥のトイレにでも行ったか、姿が見えない。店のテーブルには、お客の数だけ皿が並んで、手を洗った後、右手でカレーを食べ始める。

 お腹は空いているし、カレーは辛いし、まわりはどんどん食べているから、皿を空っぽにしていた。カレーの味は複雑で説明しようがない。何かの肉が入っているように見える。羊なのか、豚なのか分からない。インドだから、牛肉ではないだろうが、水牛かもしれない。(インド、ネパールでは、水牛は差別されていて、牛ではない。だから喰われる)

水は置いてあるが、得体のしれない水なので、もちこんだミネラルウォーターを飲む。お勘定は、少し高いように思うが、まわりに店もないことから、独占体なのだ。

 トイレを済ませて、バスに戻って、出発。そして、揺られて数時間。お腹がゴロゴロしてくる。隣のお客も、後ろも前も、全員がお腹ごろごろ、とうとう誰かが運転手に緊急停車を頼んで、止まるやいなや、ほとんどのお客が立ち上がった。そして、周りの林の中に、駆け込んだ。バスは、一人くらいがトイレ休憩を頼んでも、チップを払っていなければ止まらない。

 そう、集団食中毒だ。軽くてひどい下痢。悪くて赤痢、疫痢。アミーバ赤痢や、サルモネラ菌など、こちらは様々なメニューがそろっている。

 ところが運転手だけは、ケロッとしている。
 実は、バスと食事をする店とは結託していて、バスの運転手は、自分が決めている店にお客をドバッと連れて行って、そこでお店からマージンを取る。

 お客も、まわりにまったく別の店が無いので、逃げようがない。そして、出てくる料理はいつの料理か、どんな肉か、まったく分からないものだ。腐った肉も、カレーの香辛料の香りが強くて、臭さが消えている。カレーは偉大だ。要は完全に初めから人間の食べ物ではなかったのだ。運転手だけは、店の奥で、別の特別の素晴らしい?料理を食べていたのだ。
 
 集団食中毒下痢がバスで起こると、ひどい状態になる。窓から吐き続け、連続トイレ出撃状態となるのが普通だが、これが数十人に起こるのだ。バスがちょっと揺れても、もう止まらない。ほぼ全員が下痢の便をバスの中で漏らすことになり、上下左右に汚物、吐しゃ物、下痢物が飛び散り、走る下痢トイレと化し、運転手は逃げてしまうこともある。これ以上、原稿を書けないほどの悲惨な地獄の状況になる。

 運転手だけが、ケロッとしている。こんなバス旅行の記事を訳しながら、
「先生は、バスで旅行されるのですか」
「もちろんです。一度やはり軽い「バス下痢」をして、それ以降は、バス旅行では絶対に食事をしません。多量のビスケットと、果物、ミネラルウォーターを持参して、決して、バスの推薦のレストランでは、食事をしないのです。ただ、バスの運転手にはチップを渡します。途中でのトイレはする必要があるのです。必要時に止まってくれないと、こまります。お店で、包まれたお菓子を買う程度です」
「なるほど。通の旅行者ですね」

 この話を聞いた、バックパッカーの顔は引き攣っていたが、
「助かりました」と、笑いながら一言。

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