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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

フリー経済学の教科書「フリー」が面白い。全く新しい経済学の始まりか。

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Screen_shot_20091130_at_32205「FREE フリー<無料>からお金を生み出す新戦略」Chris Andersonクリス・アンダーソン、小林弘人=監修・解説、高橋則明=訳、NHK出版を読む。発売前にフリーでネット上で公開して評判になった。立ち読みではなくすべてを公開するというマーケティング手法を自ら実践してみせた。著者のChris Andersonは「Wired」の編集長でLong Tailという概念を初めて提唱したことで有名だ。この「フリー」はその続編にあたると言っていいだろう。今日のデジタルインフラを前提として経済活動をまったく新しい眼で捉えている。

そのメインとなる考え方が「フリー」だ。高度に進んだデジタルインフラのおかげで、デジタルによるものや情報の流通コストが限りなくゼロに近づいたことによるこれまでに無かったマーケティングの手法が生まれていることを歴史的な背景や様々な業種の例を引きながら解説していく。内容はIT業界についての話でもあるのだが、それよりはもっと広範囲で一般的な新しい経済学の本といえる。クリス・アンダーソンは経済学者ではないので話の進め方は決してアカデミックでは無いが、技術の発展によって新しい経済社会が生まれつつあることを情熱を持って語っている。内容は豊富なのでぼくが解説するよりはぜひ本を購入して読まれることを薦めるが、これから何回かに分けてぼくが特に興味を持った部分をぼくなりの解釈を加えて紹介する。

まず始めは「Penny Gap」という言葉だ。簡単に言うと1ペニーでも課金する場合と無料とは大きな違いがあるということだ。実験なども含めて無料ということがユーザーに与える心理的影響がいかに大きいかを解説している。価格を下げていってゼロになった時に需要が非線形的な伸びを示す。逆の言い方をすると5ドルの売り上げを5000万ドルにするよりも最初の1ドルをユーザーに課金する方がより難しい。

雑誌ビジネスからから見ると、無料のフリー雑誌を見ている読者よりも年間10ドルでも購読料を払っている読者の方が圧倒的に有力な広告のターゲットになる。確かにアメリカの雑誌の年間購読料は驚くほど安くて不思議に思っていたが、フリーペーパーにせずに購読料をとっている雑誌に価値があるということだ。そしてこの10ドルを課金することが一番難しい。消費者はどんなに安い価格でも値段がついたとたんに心理的な壁を感じて手が止まってしまう。

これをブレークスルーするのがデジタルによるフリー戦略だ。限界費用がほとんどゼロになるデジタルインフラを使った商品やサービスの提供でパイを広げることで収益をもたらす顧客を見つけようという。

つづく。

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