スマート革命が促進するサービスの戦線無限拡大の罠、バーンズ&ノーブルがアマゾンキンドル対抗でヌック用ビデオストア開設
<序文>
スマート革命(ポストPCコンピューティング)は機器の仕様では無く、サービスにその価値があります。(サービス支配論理)その結果、勝負はスマート機器群(例えばスマートフォン、タブレット、スマートテレビ、スマートカーのカーナビなど)とその上に生え出たインターネット上の優れたサービスで決まると考えられて来ました。
しかしここに来て新しい動きが鮮明になっています。勝ち組になる為には無限のサーブス戦線の拡大が必要と言う見方が広がっている点です。
既にスマート機器も単独では難しく、サービスを支えるスマート機器群が必要と言われて来ましたが、新しい見方はスマート機器群の上に根と茎が生えたサービスも単独では決定的に不十分であり、豊かな森のようなサービス群を育てないと駄目と言う見方です。
日本家電メーカーのような単独スマート機器だけでも駄目、かと言って電子書籍店舗の単独サービスだけでも駄目、スマート機器群とサービス群をそれぞれ一定の軍団として組織しない限り勝てない時代にはいったようです。
ここでは米国書店のバーンズ&ノーブルの例を取り上げます。
<アマゾンを追うバーンズ&ノーブルの苦悩>
米国トップの物理店舗を展開する書店企業のバーンズ&ノーブルは、アマゾンの電子書籍に対抗する為、eBook用の電子書店と共に専用機器のヌック(電子書籍リーダーとタブレット)を開発し、アマゾンと互角に近い戦いを演じて来ました。(アマゾンの電子書籍市場占有率5-6割、バーンズ&ノーブルが25%-30%)
電子書籍事業への投資とスマート機器、ヌックへの投資などにより倒産の危機に直面しながらもバーンズ&ノーブルの健闘は、米国司法省も高く評価している事がアップルと出版五社との独占禁止法違反裁判で明らかになっています。
そしてここに来てバーンズ&ノーブルは映像のストリーミングとダウンロード販売の為のビデオストアをこの秋立ち上げると発表しました。
マイクロソフトからの出資を受けて同社のタブレット・ヌック販売の為には本業を超えた展開が求められている為です。では何故、書店のバーンズ&ノーブルは、わざわざ電子書籍端末販売の為に本業を超えたリスクを伴う展開を開始したのでしょうか。マイクロソフトからの出資があるとはいえ、これにはかなりのハイリスクがあると考えられます。
★★ UPDATE 2-Barnes & Noble to launch video service for Nook
★★Barnes & Noble Announces Nook Video Apps, Launching This Fall
デジタルカメラと言う単独機器の上にのっかった単独写真サービスのクオンプ
<出所:リコー>
<バーンズ&ノーブルのビジネス戦線拡大は昔の日本軍そっくり>
一人が七台のスマート機器を操るスマート革命は、色々なアプローチがあり、単一機種と単一サービス型の進出も試みられて来ました。例えば日本のリコーがデジタルカメラの販売に関連して立ち上げた「クオンプ」などのビジネスがそれにあたります。デジカメで撮った写真を直ぐにクオンプ=クラウドサービスに登録して、プリントで稼ぐと言うアイデアです。米国の書店であるバーンズ&ノーブルも電子書籍に限った形でヌック(電子書籍リーダーとタブレット)とヌックストアを立ち上げました。
しかしここに来てアマゾンが戦線を拡大した為、単独サービスでは勝負にならない事が明らかになり、かなりの戦線を拡大したサービス提供を実施しないと勝負にならない状況が出現し始めています。この状況に関してフォレスターリサーチのアナリストであるジェームス・マッキベイ氏は「スマート機器販売を維持するためには、飽くなき戦線の拡大が必要であり、全ての商品を売らなければならない。」とコメントしています。
それに備えてマイクロソフトから出資を受けてヌック部門を独立させる方針を採用した点は既に書きました。そして今回はビデオのダウンロードとストリーミングサービスに進出しました。次は音楽やゲームなどが対象になるのでしょう。
ノウハウの無いビジネスへの進出は物理的な専門書店にとってかなり厳しい状況であり、嘗てのドイツ軍(西部戦線とロシアを相手とした東部戦線の二面作戦)や中国の奥へ奥へと誘い込まれ、同時に米英を相手とした日本軍のような無限の戦線拡大が求められた状況に酷似しています。物理世界で専業書店のバーンズ&ノーブルも、電子書籍とスマート機器販売に足を踏み入れたお陰で未知のビジネス領域に進出せねばならず、下手をすれば補給路を考慮せずに進軍した日本軍のインパール作戦のような失敗のリスクを負いかねない状況にあります。
<スマート革命の勝者の条件>
さてスマート革命に於いて勝ち組になる為には、複数のスマート機器群の上にかなりの数のサービスの森を茂らせなければならない状況が明らかになり始めています。デジタルコンテンツ全般(メディア全般)、更にEコマース全般をスマート機器群によって囲い込むと言う戦略、アマゾンや日本の楽天は明らかにこの方向に突っ走っていると考えられます。アマゾンは何時独自のスマートフォンを出すのかが注目され、ロクの買収提案などスマートテレビ販売に出る動きを見せており、サービスと共にスマート機器群を横展開し始めてます。
それを追う書店専業のバーンズ&ノーブルは苦しいですね。
日本のメーカーで今後ここまでやれるのはソニー位でしょうか。韓国二社もこの方向に進んでいます。スマート革命の勝負は多様な機器の群れとその上に育つ多様なサービスの群れと言う総合力で決まる時代が来たようです。