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「頭脳」も外注する時代

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朝日新聞がスタートさせた新紙面『GLOBE』。その2月16日号に、インドのアウトソーシングビジネスについて解説した記事が載っていました。嬉しいことにネットでも公開されているので、まだご覧になっていない方は以下からどうぞ:

インド「頭脳外注」 もはや、その存在なくして世界は動かない (朝日新聞グローブ)

ご存知IT分野から、医療、教育など様々な分野でインドの「頭脳」が活用され、その存在感が増しているという内容。またその背景にある社会・教育システムなども言及され、なかなか参考になる記事です(いつもは「新聞なんて」と斜に構えている僕ですが、この特集は純粋に楽しみました)。で、ちょっと補足として、この「頭脳外注」という表現についてコメントしておきたいと思います。

「頭脳外注」といっても、別に意志決定まで外注してしまうわけではない。単純にIT技術者や医療技術者の頭脳を借りてるだけだろ――と思いきや。確かにGLOBEの記事中ではそのような表現なのですが、文字通り「考えること」までインドの企業に頼るという現象が起きつつあるそうです:

Should You Outsource Your Brain? (Harvard Business Review)

企業が総務や人事、会計といった機能だけでなく、「意志決定」までも外注を始めている状況について(全然関係ないですが、母校 Babson College のダベンポート先生が書かれた記事です)。中心部分を引用してみると:

The trend began quietly in the mid-1990s, at General Electric’s captive offshore center in India. Though the center was set up to do back-office work, managers realized that employees there could also help with decision algorithms. Soon the operation had become the primary provider of decision tools for credit and risk analysis. When GE sold a stake in its offshore unit in 2004, the resulting company, Genpact, began to take on decision analysis for other clients.

Today several other offshore firms – Mu Sigma, MarketRX (acquired by Cognizant in 2007), and Inductis – also specialize in decision analysis; their clients include some of the largest U.S.-based firms. They’re helping a major retailer to decide where to build new stores, a large auto insurance company to set rates for different customer subsets, a pharmaceutical giant to decide how to deploy its salespeople, and a leading office products retailer to decide which promotions and products to offer to which customers. Even large offshore vendors that previously specialized in IT, such as Cognizant, TCS, and Infosys, are beginning to develop an expertise in decision making.

このトレンド(※企業が意志決定をアウトソースすること)は1990年代の中頃、インドにあるGEのオフショアセンターで静かに始まった。このセンターはバックオフィス系の業務を行うために設立されたものだが、管理者達はそこで働く従業員達が意志決定もサポートできることに気づいた。すぐにそのサポート業務は、信用とリスクの分析を行うツールの提供者へと進化した。GEがそのオフショアセンターを2004年に売却したとき、誕生した企業"Genpact"は、他の顧客のためにも意志決定分析を引き受けるようになった。

今日、Mu Sigma、MarketRX(2007年に Cognizant が買収)、Inductis などいくつかのオフショア企業も意志決定分析に特化した業務を行っている。彼らのクライアントには、米国に拠点を置く大企業も含まれている。彼らがサポートする意志決定は、小売業者の新店舗出店エリア、自動車保険業者の顧客セグメント別レート、製薬会社の営業部隊展開計画、オフィス用品小売業者のプロモーション・品揃え計画など多岐に渡る。以前はITに特化していたオフショア企業、例えば Cognizant や TCS、Infosys なども意志決定の専門家達を揃え始めている。

とのこと。ちなみにここに登場する6つの会社、全てインドに関係する企業です:

小売業者にとっての出店計画、保険会社にとっての保険料金といったらビジネスの根幹に関わる意志決定のはずですが、それを外部に委託してしまうとは。満足な結果が出ていないのであれば、いくら低価格でも彼らを使おうという企業は出てこないはずですから、ある程度の成果を上げているのでしょう。

この状況をどう捉えるか、感想は人によって様々だと思いますが、個人的には「『インドの頭脳』の利用を日本も考えなければいけないのではないか」と感じています。「大切な意志決定を外注するなんて無理だ」「そもそもインドの企業に何が分かる」という意見もあるでしょうが、彼らが何らかの知見を持っていることは事実。欧米の企業がそれを利用して、効率的にビジネスの展開を図っているのならば、日本も無視するわけにはいきません。特に海外展開している企業は、早晩上記のような会社を活用する日が来ると思います(もしくは既に検討や活用を始め、彼らとの付き合い方を学び始めているかも)。

おいおい、そしたらお前らのようなコンサルタントが困るんじゃないのか?と言われてしまいそうですが、正直彼らとの競争が生まれてくる分野がありそうですね。しかしタベンポート先生によれば、

Companies that outsource decision making report improvements in their decision processes and results. But how did they get comfortable with the idea of turning important business decisions over to third parties? Some say that the project structure was critical. The office products retailer, for example, recommends “4-1-1”: four offshore analytics consultants, one consultant at the client site, and one well-connected client employee on the team. The onshore consultant is responsible for communication and coordination between the offshore team and the client.

意志決定をアウトソースしている企業によれば、彼らの意志決定プロセスと結果には改善が見られたそうである。しかし彼らは、ビジネス上の重要な意志決定を第三者に任せるというアイデアとどう折り合いを付けたのか?ある関係者によれば、プロジェクトの体制が最重要なのだそうだ。例えば全鬱のオフィス用品小売業者のオススメは、「4-1-1」という体制である。これは、「オフショアの分析コンサルタント4名、クライアント側のコンサルタント1名、そして社内にネットワークを持つクライアント側の従業員1名をチームに混ぜるという意味だ。オンショアのコンサルタントは、オフショアチームとクライアントの間のコミュニケーションとコーディネーションに責任を持つ。

とのことですから、「コーディネーターとしてのコンサルタント」という生き残り方はあるかも?もっとも、誰にも負けない知見を手にして、世界に対して「頭脳を売る」という生き方を目指さなければいけないのでしょうが。

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