評価の際に大事にすべきもの
9月は多くの企業において半期の締めであり、評価の時期であるため人事の方々や評価者は頭の痛い時期ではないでしょうか。「評価基準も定まっているし、評点もきちんと出ているのですが評価者によって観点がずれてしまいばらつきが収まらない・・・」といったことをよく相談として受けることがあります。
評価に対する価値観やスタンスは企業によって様々ですし、評価者個々によっても異なることも多いものです。せっかく規程や評価マニュアルに評価基準が示してあるにも関わらずなかなかうまくいかないケースも多いと思われます。
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評価者の方々に「皆さんは評価の際に何を大事にしていますでしょうか?」と問うと
- 公平性があること
- 公正であること
- 納得感があること
の3つがよく上げられています。
どれも大切ですが、どこに力点を置くかは十分考えたうえで判断していく必要があります。
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◆公平性があること
公平性も言葉としてはわかりやすいものですが実際は、「評価結果の公平さ」「評価プロセスの公平さ」「評価者と被評価者の人間関係を含めた距離感の公平さ」、場合によっては評価の前提となる「担ってもらう仕事の公平さ」「仕事への関与度の公平さ」「責任の公平さ」を含む場合もあります。
一概に「公平」といってもどのことを指すのかを適切にすりあわせされていない場合には評価者によって解釈がことなり、結果評価がブレてしまう可能性もあるのです。
加えて、公平さは追求すればするほど、杓子定規な「平等」や「一律性」に置き換わってしまう場合もあり難しさもあります。
ある企業では、公平に評価するために、「全員に同じ仕事を担ってもらう」「どんな環境でも設定する目標は同じ」あるいは、「全員同じ評価にする」などとしてしまっている例もあります。このように公平さを追求するあまり、行き過ぎた悪平等を誘発するリスクもあります。
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◆公正であること
評価において「公正さを欠くこと」の多くは、評価の是正や補正のプロセスの中で発生します。一次評価者、二次評価者の評価結果が幹部層などの評価決定の場で変更されてしまうような場合などがそれにあたります。いわゆる評価調整や補正・是正・修正が限られたメンバーにより非公開で1次評価者、2次評価者の結果を無視してなされるような場合です。
もちろん、評価調整や補正・是正・修正に問題があるということではなく、この行為が透明性のあるプロセスの中で行われていない場合、加えて評価基準を逸脱して行われている場合は問題と考えています。したがって、「透明性」を担保し、なぜそのようなことが必要なのかが明確に分かる状態となっていることが重要であると考えます。そのため、「評価調整理由を明確に社内に公示する」「評価結果の公示する」ことなどが大事になります。
ただし、全てをオープンにするにはかなりの企業努力と受け手が正しく認識して受け入れることができる環境が必要になるために、一筋縄ではいきません。逆にオープンにすることを急ぐあまり、公正さを欠いた部分が露呈して議論を誘発してしまうといったリスクもあります。もちろん個々の評価結果を全社に公開する企業は実在するものの多くはありません。ただ、被評価者本人にはその理由や評価調整の理由も含めフィードバックしていくことは必要です。
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◆納得感があること
これまで見てきたように、評価において完全に公平・公正を担保することは難しい面があります。この場合、得るべきは納得感ともいえると思います。乱暴に言えば「公平さが不十分でも被評価者の納得を得れば問題ない」といった面もあります。
一方で、どんなに正しい評価であっても、「低い評価」である場合には「納得を得にくい」といった難しさも併せ持ちます。そのために「評価者は被評価者の納得を得るために評価を甘くしてしまう」といった弊害が評価の場では発生してしまいます。
評価者の方々にインタビューすると
「被評価者の納得を得るため評価を高めにつけた」
「被評価者のモチベーションを上げるため高めの評価とした」
との声を聞きます。
もちろん、成果が高くその評点に妥当性があるのであれば全く問題はありません。しかしながら、「納得感をえるためだけに評価を調整してしまうこと」は一番やってはいけないことだと考えます。評価の点数は成果などの結果であり、成果が上がっていない場合にはたとえ納得を得にくいことが想定されていても正しい評価(低い評価)を付けなければなりません。成果が上がっていない被評価者に甘い評価がついていることが周囲に解れば、頑張って成果を上げた方々の納得感を欠くことになり、「やってられない」といった気持ちにさせてしまいます。
そのため、納得感は面談、特にフィードバック面談で醸成するものである点を心得る必要がありますので、十分な説明と摺合せこそが重要と言えます。
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これらの3つの点を適切に認識し実行できる状態をつくることは、一朝一夕に実現することは難しいものです。公正さは、制度の整備、運用ルールの明確化といった仕組みの改善で一定の効果を生むことが可能でしょう。しかしながら、公平性、納得感に関しては評価者のレベルアップが必須です。
そして何よりも大事なことは、「当社の評価は公平性を追求する」「公正さに力点を置く」「納得感を得ることを重視する」といったように上記の3つのうち、どれに力点を置いて評価を運用するかを明確に決め、評価者・被評価者に打ち出していくことです。上記の3つのどれが「正解」といったものはありません。ただ、自社の方針として「何に重きを置くのか」をはっきり示すことが肝要です。
加えて、評価者に自社として打ち出した視点を正しく理解してもらい、評価の観点として用いてもらうことが大切になります。評価者にこれらの視点を適切に理解してもらうには、講師が一方的に教える形でのトレーニングでは限界があります。評価者であれば程度の差こそあれ、頭ではわかっていることですので、講義型では効果が薄い場合が多いのです。
やはり、現場の評価者が「実際の事例」を持ち寄り、少人数単位で議論をしながら「視点」「認識」をすり合わせていくワーク型のトレーニングこそが効果を生みます。このような取り組みを半期に1回、評価のサイクルに合わせ、都度実施し続けることこそが重要といえます。
皆さんの会社でも継続的な評価者の認識合わせのワークショップを始めてみてはいかがでしょうか。
常務取締役
八代智