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組織を活性化させていく上で外せないポイントを、企業や組織が抱える問題や課題と照らし合わせて分かりやすく解説します。日々現場でコンサルティングワークに奔走するコンサルタントが、それぞれの得意領域に沿って交代でご紹介します。

タレントに着眼してアサイン拡大を【後編/解決】

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タレントマネジメントをすでに自社の人材マネジメントの中に採り入れ、個人のタレントを活かそうとしている企業がある。その企業では、タレントマネジメントを推進していく以前に、そもそもどのような問題や課題を抱えていたのか、またタレントマネジメントをどのように位置づけ、問題や課題を克服し、解決を図っていったのか。タレントマネジメントを推進することによって会社組織を変革させていった事例を見ていくことにする。

 

・幅広い人材から新規プロジェクトの立ち上げを―A社の事例【後編/解決】

 

<設計>新規プロジェクト立ち上げ時に絞り込んでタレントを定義

 

実際の業務では、新規プロジェクトにアサインする人間が限られたことがデメリットだったが、タレントの定義においてはそれがかえって役立つことになった。すでにアサインされ続けている人材のタレントを抽出して、ひとつひとつ鮮明にしていけば、求められるタレントは明らかになるからである。そして、新規プロジェクト立ち上げを成功に導くタレントを探っていくと、WEBやインターネットに関する知識や経験ばかりでなく、マーケティングについての知識や経験、事業を運営するための経営的な知識や経験が不可欠なことがわかってきた。

 

社内には、実績はなくとも意欲のある従業員や優秀な若手社員がおり、豊富な経験を持つベテラン従業員もいた。インターネットでの検索順位を上げたり、WEB広告の効果を測定したりする等、インターネットの限定された課題に対する知識や経験を持つ従業員も数多くいた。新規プロジェクトを成功させるには、いずれの人材のタレントも得難いものだったが、何よりも必要だったのは、事業の可能性を探るマーケティングの知識だったり、ひとつひとつのWEBの技術を総合的にマネジメントしたり、ディレクションしたりするスキルだった。そこでA社では、これらのタレントを定義していったのである。

 

<活用>多くの従業員にアサインを

 

従業員は、定義されたタレントをどれほど持っているのか。A社ではそれをひとりひとりについて確認すると共に、教育や研修の場を設けて、不足するタレントについて強化できるようにした。一方、新規プロジェクトの立ち上げ時には、多くの新しいメンバーを加えるようにした。一部の従業員に偏らないアサインを実施し、全従業員に対して同じ条件で候補者を抽出するようにした。もちろんこの時点で新しいメンバーが必要なタレントを全て備えているわけではない。だが、求められるタレントは明らかになっている。

 

このタレントの可視化は、取り組みの中での大きな効果をあげることになった。求められるタレントが可視化されていることでプロジェクトリーダーはタレントマネジャ―として、プロジェクトの進行と共にメンバー各人の不足しているタレントと、その育成状況を把握できた。求められる必要なタレントと、従業員が現在持っている現実のタレントとの差分を把握し、それを本人にも会社組織にも共有していった。誰がいつまでにどのようなタレントを育成しなければならないのかがわかってくると、ひとりひとりの従業員の誰もが自分のタレント育成に関心を持つようになっていった。新規プロジェクトの立ち上げを、他人ごとのように考える雰囲気は自然と消えていったのである。

 

<運用>タレントを一般化、さらにチャンスの幅を

 

ひとつひとつのタレントについて、誰がどの程度、伸ばしているのか。各個人のタレント情報は、プロジェクトや日常の業務の中で更新されていく。また、タレントマネジメントを意識するようになったことで、仕事の現場では先輩たちが盛んに助言を行い、経験の浅い従業員にとっては自分のタレントを伸ばす大きなきっかけにもなっていったのである。過去の職務経験が、タレントマネジメントによって的確に把握されるようになり、新規プロジェクトへアサインされれば、それがまたひとつのタレントとして記録されるようになった。また、人事部門では、各人のタレントの育成情報にもとづいて、その後もスキルや経験等の差分を埋めるための教育や研修を企画した。タレントに注目するようになったことで、新規プロジェクトの立ち上げに必要なタレント育成を体系化することができるようになったのである。

 

従業員たちのタレント情報は、上級管理職以上に開示され、共有化されていった。自分の部署の人材が、他部署で力を発揮できるのではないか。逆に、違う部署の人材が、自部署で活躍できるのではないか。管理職たちは、そのような目で人材を見るようにもなった。ひとりひとりの人材の持つタレントを全社にとって存分に発揮できるような風土が、徐々に全社的に築かれていったのである。

 

<開発>新たなタレントを求めて機会の創出を

 

各人のタレント情報が、プロジェクトや日常の業務の進行と共に更新されていけば、当初、設計段階では定義されなかった、もっと別のタレントが必要ということがわかってくる。開発すべきタレントである。

 

人事部門では、定期的にタレントの追加と削除等のメンテナンスを進め、必要なタレントを最新の状態に保つようにした。それはタレントマネジメントの取り組みそのものをブラッシュアップすることにほかならなかった。A社では、タレントを意識した異動や配属、出向等も実施するようにした。新しい機会を提供して、新たなタレントを開発する取り組みの一環でもある。

 

<効果>人材育成にも中長期的な視点が

 

A社では、当初の目的通り、新規プロジェクトの立ち上げにこれまでよりも多くの従業員が携わるようになった。新規プロジェクトにアサイン対象となる従業員を拡大できたことは、タレントマネジメントを推進した最も大きな効果である。多くの従業員にとっては、新規プロジェクトにアサインされること自体が新規の機会創出であり、タレントの開発を促すことになった。もちろん、新規プロジェクトへのアサインは、タレント育成を考慮するだけではなく、日常の評価や会社に対する貢献心の有無も加味されて行われている。

 

A社は、今回の取り組みによって必要なタレントを明確にすることができ、従業員が現在持っているタレントとの差、つまり、育成すべきタレントを明らかにすることができた。各従業員の育成すべきタレントのための教育、研修等の機会提供を形にすることができ、中長期的な人材育成のビジョンも立てることができるようになった。会社にとっての戦略的人材育成が実現しつつあると言えるであろう。

 

職務経験をタレントとして可視化して管理することが定着したことで、誰もが自分の職務経験に関心を持つようになったことも成果のひとつと言える。誰もが自分のタレントの育成を意識し、明確な目標を持つことができるようになった。会社への失望や閉塞感は消え、優秀な人材が離職することは少なくなった。逆に期待感が高まり、社内にまだまだ眠っている優秀な人材を発掘しようという空気が流れ始めている。会社は活気を取り戻しつつある。

 

代表取締役社長 兼 CEO 大野 順也

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