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予測できないITの行く先を、あちこち歩きながら考えてみます

日本のオンラインメディアではまだ破壊的イノベーションが始まる条件は揃ってないかも

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日本に進出してきたGizmodoTechCrunchEngadgetのような新興メディアは「低コスト、低収入」という新しいビジネス構造を持っていて、これは破壊的イノベーションがオンラインメディアで始まったんだろうなあ、たぶん。という主旨の文を、前回のエントリ「オンラインメディアでも破壊的イノベーションが始まったのだ、恐らく」で書きました。

既存のオンラインメディア、例えば、わがアイティメディアも、インプレスも、たぶんCNETなど、どこも、
・自社開発のCMS(や高額で購入したCMS)と技術チーム
・編集長を頂点とする編集チーム
・広告を獲得する営業チーム
という、フルラインナップのスタッフが企業内にいるのに対して、

新興メディアは、
・ブログがCMS
・数人のブロガー
・営業はほとんどいない。収入はAdSenseや広告ネットワークに依存
という構成。つまりメディアを維持するのに数人しかいらない構造です。

これはコアコンピータンスに集中した新しいタイプのオンラインメディアビジネスの始まりではないかと思ったわけです。

コメントをくれたCNETの坂さんの記事によると、この新興メディア、特にTechCrunchのの裏側がもう少し詳しく分かります。それによると、TechCrunchは運営者Arrington氏を含め3~4人のブロガーで運営していて、1カ月の読者は約150万人。広告の営業はFederated Media Publishingというエージェントにアウトソースしていて、メディアの取り分は広告売り上げの6割程度。

Arrington氏は、傘下のいろんなブログを発展させて、「分散型のCNETのようなものをつくりたい」と語ったとも伝えられていました。

さて、こういう新しい流れを感じていたのは僕だけじゃなくて、うちのスタッフのヤコウ君は「情報が細分化された新興メディアが出てくるのは自然な流れ」という主旨のコメントをくれたし、元CNET Japan社長でいまは自由人? の御手洗さんも「世の中の変化とビジネス/企業の意識の変化と、どちらが早いか気になる気になる...」と自分のブログに書かれています。

御手洗さんの思う「世の中の変化」とは、こうした新興メディアの登場のことで、「企業の意識の変化」とは、こうした変化にいまの当社やインプレスやCNETが追いつけるか、ということなのでしょう。この疑問は、僕の持っている疑問と重なります(だから御手洗さんは、僕のエントリを「悩み」と表現したのでしょう)。

でも、実際問題として、これら新興メディアの破壊度はどのくらいなのでしょうか?

坂さんの記事で分かったことですが、米国ではブログなどの広告を積極的に商売にしようとしている広告エージェントがあります。これが僕の想像以上の活躍で、前述した広告エージェントのFederated Media Publishingは昨年秋に創業。現在75以上のブログの広告を取り扱っていて、営業担当者8人を抱えているとのこと。代表的な人気ブログの売り上げは年間100万ドル(約1億2000万円)を超えるそう。

しかし、日本ではこの広告エージェントはまったくと言っていいほど存在していません。それ以外の収入の手段としては、実質的にAmazonなどのアフィリエイトとAdSenseくらいでしょう。

(あえていえば、電通やデジタルガレージなどが合同で設立する新会社「CGMマーケティング」が将来的にはそれに近くなるかどうか)

つまり、ブログというテクノロジーインフラと、広告エージェントというというビジネスインフラの両面が新興メディアを支える条件だと考えると、日本ではまだ新興メディアの破壊力を発揮する条件は揃っていない、というのが現状だと思います。

とはいえ、@ITだって立ち上げてからここまで6年が過ぎているわけです。「まだまだ」と相手を見くびっていると、数年後には逆転されているかもしれません。

前回のエントリでトラックバックをいただいたブログ「ビジョナリーカンパニー作成日記」のエントリが、私自身の立ち位置を自分たちを思い出させてくれます。

そもそも@ITやITmediaやCNETなどのオンラインメディアは、既存の書籍や雑誌に対して破壊的イノベーションだったわけです。それが、今度はオンラインメディアのなかでさらに破壊的イノベーションに追われようとしているのです。

個人的な感想としては、自分で世の中の時計の針を進めようとネジ巻いてたら、いつの間にかその後ろで、さらにネジ巻いてるヤツがいた、と言う感じですね。

ところで、広告エージェントのような企業が登場すると、実は新興メディアだけでなく、そのほかにも大いに発展しそうな企業はたくさんあります。例えば「はてな」。

はてなだけじゃなくて、テクノロジーにとんがって生きていきたい、広告営業はアウトソースしたい、という企業はWeb 2.0時代にはうじゃうじゃいます。日本でも、広告ネットワークに対するニーズは高いのです。

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