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仕事が不満で仕事を変えても、「やりたい仕事」に出会えない。その理由と対策は、「やりたいこと」「やるべきこと」「できること」をわけて考えるとわかる

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ビートたけしさんが、テレビ番組の「ゆとり世代は日本を救うのか!?」という企画で話した内容が話題になっています。

ビートたけし ゆとり世代にキッパリ反論「自分の好きなように仕事なんかできるワケない」

---(以下、引用)---

...ゲスト出演したゆとり世代の一般男性が「会社に縛られて拘束されるよりは、自分のやりたいように働いていく」と発言すると、たけしは「それは間違いだね。自分の好きなように仕事なんかできるワケない。仕事というのは社会が結びついて仕事というモノを編み出すもんであって…」とキッパリ反論。

---(以上、引用)---

 

実際に番組のこの部分を見てみましたが、「なるほど」と思いました。

私は日本IBMに約30年間勤務しましたが、実は在職中、

「永井さんって、好きなことしか、しないんですね」

とよく言われていました。

実際、日本IBMでのほとんどの異動は、自分の希望に基づいたもの。「これをやりたい」と考えて異動し、キャリアを作ってきました。

このように言うと、「いいなぁ、やりたい仕事ばかりできて」と言われます。ただ、このようにおっしゃる多くの人が誤解していることがあります。

希望する部署に異動しても、「異動先の部署では、やりたい仕事ができるとは限らない」ということです。むしろ最初の仕事は「やりたい仕事ではない」ことが多かったのが、自分の実感です。

「『希望して異動したのに、やりたい仕事でない』って、なんで?しかもそれなのに『永井さんって、好きなことしか、しないんですね』と言われるのって、矛盾していない?」と思われるかもしれませんね。

 

これは仕事を、「①やりたいこと」、「②やるべきこと」、「③できること」の3つに分けて考えるとよく理解できます。

この3つに分ける考え方は、先週、IBMの大先輩であるシグマクシスCEO・倉重英樹さんの講演でお聴きして「なるほどなぁ」と思い、さらにその後、自分の経験に当てはめて考えてみたことですが、ご紹介します。

 

まず、会社を離れたオフタイムで、趣味のジョギングや写真をするときのことを考えてみましょう。

「やりたいから、やる」のが趣味です。「やりたいこと≒やるべきこと」ですよね。

ただ、「やるべきこと=できること」とは限りません。必ずしも上手ではないかもしれませんよね。たとえば写真が好きでも、実際に撮る写真はイマイチかもしれません。上手であるに超したことはありませんが、お客さんがいるわけではありませんし趣味なので楽しければいいわけですね。

絵にすると、オフタイムの趣味は赤い部分。これが大きいほど、オフタイムは楽しくなります。

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では、仕事ではどうでしょう?

人は、無理矢理「これをやらなければ!」と思って仕事を頑張るよりも、「これはぜひやりたい」と思ってやる方が、はるかに大きなパフォーマンスを生み出します。(これはダニエル・ピンクという人が、「モチベーション3.0」で述べたことです)

特に知識社会になると、「やりたいことをやる」ことで、知的作業のパフォーマンスが大きく高まります。

ですので、できる限り「やりたい仕事をやる」ことが理想です。その方が本人も幸せですし、仕事の成果も高まるからです。

知識社会にいる現代人、特に若い人たちはこのことがよくわかってるので、「自分がやりたいように働きたい」と考えるわけですね。

一方で、ビートたけしさんが「仕事というのは社会が結びついて仕事というモノを編み出すもんであって…」とおっしゃっている通り、仕事は、仕事をする当事者の希望とは別に、あくまで社会の事情で発生するもの。

つまり、趣味とは異なり、「お客さんがいて、自分のアウトプットに対してお金が払われる」のが仕事です。(時々、「外回りじゃないので自分は別です」という方がいますが、間接部門の仕事であっても、自分のアウトプットを社内で受け取る人がいる筈。仕事の対価としてもらう給与は、会社でなく、回り回ってお客さんが払っているのです)

 

このようになっているので、仮に希望する部署に異動したとしても、異動先でアサインされる仕事が「やりたいこと=やるべきこと」とは限らないのです。

一例を挙げると、「マーケティング戦略の立案をしたい」と希望して、マーケティング部門に異動したケース。

異動先では、戦略立案はシニアな先輩たちが既にやっていて、市場調査の仕事しかないかもしれません。

また異動先では、その人が「できるだろう」と判断された仕事がアサインされます。「本人は戦略立案が希望だけど、まだ無理そうだな」と思われた場合、代わりにできそうな仕事がアサインされます。

絵にすると、異動先でアサインされる仕事は、図の右側の赤い部分。

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この赤い部分が大きいと幸せ。小さいと辛く感じてしまうのです。

ビートたけしさんが番組で、

「そもそも働くことは生きがいじゃなくって、色んな事があって、辛いのが当たり前だとオイラは教えられているんで。『いいことあるわけねぇんじゃないか』って感じがあるんだけどなぁ」

とおっしゃっているのは、仕事がこの図のようになっているからですね。

それでも、本人の希望にできるだけ配慮して仕事の配分をしている会社も多いのです。

実際、私が日本IBMでマネジメントをしていた際にも、できる限りご本人の希望に沿って部内メンバーの仕事を調整・配分し、異動もご本人の希望を最優先に尊重して応えるようにしてきました。

やるべき仕事はある程度決まっていますし、メンバーの人数も多いので、できるだけ多くの人の希望を叶えるために、仕事配分の最適解を探すのは、結構大変な作業です。この調整作業は、マネジメントの仕事の中でかなり大きな比率を占めます。

ただ、そうは言ってもお客さんがあることなので、必ずしも本人の希望に沿えないことも多いのです。

 

そもそも、職場でアサインされる仕事はこのようになっているので、仮に今の仕事が不満で新しい職場に移っても、なかなかやりたい仕事には出会えず、同じことの繰り返し、という状況に陥ってしまうのです。

マネジメントの立場で考えてみると、昔からいる部下の希望・能力・実績はある程度把握していますが、新しく異動して来た人の希望・能力・実績は十分に把握していないため、「希望はわかったけど、まずはお試しで...」とならざるを得ないのです。

 

では、どうすればいいのでしょうか?

「企画・提案」+「他人を動かすこと」で、この状況を自分で変えることです。

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まず、「やりたいこと」を「やるべきこと」に近づけるためには、「やりたいこと」を企画して、提案することです。

先の「マーケティング戦略の立案をしたい」と希望して異動したのに「市場調査」の仕事をしているケースで考えると、市場調査で得られた知見を元に、新たな戦略を「企画」し、それを上司や先輩に「提案」するのです。

最初は却下されることも多いかも知れません。しかしどこが悪かったかを学び、修正して反映することを繰り返せば、企画力・提案力も向上していきます。そして提案が通れば、「やりたいこと」が「やるべきこと」に一歩近づくことになります。

これを1年間、「今は修業」と考え愚直に継続するだけでも、かなりの実力が付くはずです。3年必死でやれば、第一人者になっているかもしれません。

 

もう一つは、「できること」を「やるべきこと」に近づけること。

自分ひとりでは出来ないことでも、周りの人たちを動かすことで「できること」に変わってきます。

そもそも、仕事はチームでやるものです。周りの人たちの力を借りれば、やれることは何倍・何十倍にもなります。

逆説的でありますが、孤高の存在でいる限り、自分がやりたいことはなかなかできないのです。

 

こうすることで、重なる赤い部分が徐々に増えていきます。

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私の場合に当てはめると、現在の仕事が一段落した状況で、「自分のキャリアを考えると、次にこの仕事を究めたい」と考え、異動します。

そして異動先では、「せっかくこの仕事をやるんだったら、こう変えたい」といつも考えています。そしてやりたいことを企画・提案し、賛同する仲間を増やして、実現するようにしています。一方でやらなければならない仕事が多いのも事実。しかしそれらはできる限りササッと済ませるようにしています。

「永井さんって、好きなことしか、しないんですね」とよく言われていたのは、この結果なのですね。

 

結局、会社の中で「やりたい仕事をやる」には、ビジネスパーソンとして今の仕事に見合った実力を付けること。それが一番の早道ではないかと思います。

 

「それでも、嫌なものは嫌。自分のやりたいように働きたい」と思う方もおられるでしょう。そういう考え方で会社を立ち上げ、自分でリスクを取り、やりたいことを追求している方もおられます。そのような選択肢も、それでお客さんが存在し、自分が食っていけるのであれば素晴らしいと思います。

しかし会社で仕事をしている限り、仕事に見合った実力をつけずに「自分がやりたいように働きたい」というのは、難しいかも知れませんね。逆に仕事に見合った実力があるのであれば、どんどん企画・提案することでやりたい仕事が増えていきます。

 

私が現在独立して「自分がやりたい仕事」に集中できるのも、会社員時代に、周りの皆様のおかげでビジネスパーソンとして食っていける力を、修業を通じて身につけた結果だと思います。

今ふり返っても、「あの力は、あの2年間の悪戦苦闘で身につけたなぁ」「この力は、あの時の3年間で無我夢中で仕事に取り組んだ結果だな」と思い出せる時期が、いくつもあります。

会社のいいところは、自分が成長すると、より高いチャレンジの「場」が用意されていることです。独立するとその「場」を自分で作らなければいけません。日銭を稼ぎながらこれをするのはなかなか大変です。

私が著書で書いたり、講演や研修でお話ししているのも、そうやって学んだことばかりです。

ただ、修業には終わりはありません。独立後も仕事を通じて、まだまだ修業を続けたいと思います。

 

私の場合は独立するのに30年間かかりましたが、考え方は人それぞれ。「今がタイミングだ」と思えば、その時に行動するのがよいのでしょうね。

 

以上、とあるクライアント様で来週このことを講演するので、自分の頭を整理するためにブログでまとめてみました。ご参考になれば幸いです。

 

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