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ソーシャルとリアルを融合し、「顧客の絆」を強化してきた、スターバックスの「ブランドスパークス」について調べてみた

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1月3日、当ブログで「スターバックスが、広告にお金をかけない理由」というエントリーを書きました。

ここで、スターバックスの「ブランドスパークス」という手法について触れ、同社ブランド担当バイスプレジデントであるChris Abruzzoの講演ビデオのリンクをご紹介しました。ただ英語ですし、わかりにくい点もあるかと思います。

また日本語で「ブランドスパークス スターバックス」で検索しても、現時点で私の先のブログのほか、「スターバックス再生物語」の書評が出てきます。

このように、スターバックスの「ブランドスパークス」について書かれた情報は、日本語では意外なほどありません。

「ブランドスパークスを調べると、ソーシャルとリアルの融合活用について、多くのことが学べるのではないか?」と考え、調べてみました。ご紹介します。

 

先日、私が書いたブログを簡単におさらいすると、

(1) 2008年11月4日の米国大統領選挙は、54%と低い投票率が予想されていた。そこでスターバックスは、投票率アップのために下記メッセージの60秒TV広告を1回だけ流し、デジタルやソーシャルメディアで、メッセージを増幅した。

11月4日に「投票に行ってきた」とスタバで言うと、「お疲れ様」と言ってトールサイズのコーヒーを差し上げます。

(2) 選挙当日、無償提供されたコーヒーは200万杯(通常の平日の2.5倍)。さらにスターバックス店内は「コミュニティ」の感覚に包まれた。YouTube、Facebook、Twitterの反応や、従来の紙媒体、放送、オンラインニュースのインプレッションの反響も極めて大きかった

(3) このキャンペーンは、スターバックスが「莫大な費用をかけることなくブランドに合った方法で来店客を増やし、お客様と積極的に関わる方法を見つけた」、大きなきっかけになった。これをブランドスパークスと名付けた。

ここまでがブログに書いていた内容です。

「スターバックス再生物語」ではブランドスパークスについて、「利己的な売り込みをせず、文化や人道的な問題にからめることができる機会を活用し、巧みで、意表をつくマーケティング手法」(p.278)と説明しています。(これは多くの方々が書評で紹介しておられます)

 

その後、ブランドスパークスがどのように展開されたか、Chris Abruzzoが講演ビデオで語っています。

スターバックスはブランドスパークスをもっと大がかりに行うようになりました。その一つが、"Starbucks Shared Planet"です。

そのCMを、海外のある方がYouTubeにアップしていますので、引用します。(スターバックスが投稿した動画でないので、将来削除されるかもしれません。ご了承下さい)



これは地球温暖化を考え、紙コップからマグパックに切り替えるためのキャンペーンです。

・一人が切り替えれば、何本もの木が救える。
・みんなで切り替えれば、森が救える。
・世界で、あなたも一緒に。
・4月15日、スタバにマグを持ってきて下さい。コーヒーを1杯差し上げます。
・"YOU AND STARBUCKS. IT'S BIGGER THAN COFFEE."

これを全世界16カ国、グローバル規模で増幅しました。

このCMは米国・カナダのTVだけで流されましたが、動画はYouTubeでも公開。

"Starbucks Shared Planet"というブランディングもグローバルで統一。

ペイドメディアに加え、FacebookやTwitterでも流されました。

スターバックス各国の広報チームには統一したガイドやツールを用意。

さらにグローバルで統一した店舗ディスプレイを展開、パートナー(店舗従業員)も積極的に参画しました。

顧客とスターバックスが、「地球温暖化防止に少しでも貢献しよう」というテーマで、ひとときの共有(shared moment)をしたわけですね。(下記は同氏の講演ビデオより作成)

Starbucksbrandsparks_2

 

このキャンペーンの結果、全米のモーニングショーや各地のローカルニュースなど、様々パブリシティで取り上げられたほか、Facebookファンが6%増加、Starbucks.comのアクセスは4倍になりました。

このような活動を積み重ねていったのですね。

このように、スターバックスはブランドスパークスを始めたことがきっかけで、デジタルメディアと従来型メディアの相乗効果を前提に、Go To Marketモデル(顧客へ価値を届ける方法)を大きく変えました。(下記は同氏の講演ビデオより作成)

Starbuckscrossmedia 

現在スターバックスは、この仕組みを「スターバックス成長モデル」としてよりシンプルに説明しています。

「店舗」「消費財」「店舗とソーシャルでの感情の絆」をクロスチャネルで相乗効果を出し、成長を図っていくモデルです。

Photo  
 

現在、スターバックスは数字の上でも、消費者向け小売業のデジタルマーケティング活用で他社を圧倒しています。

Photo_2  

現時点で、スターバックスのFacebookファン数は3600万人、Twitterフォロワー数558万人。途方もない数です。スターバックスジャパンの数も、日本国内ではかなり大きな数字です。

Photo_3   

同社ブランド担当バイスプレジデントのChris Abruzzoは講演ビデオで、

「実際、自分たちはまだあまり多くのことわかっていない。この広大なインターネットの世界で自分たちが知っていることは、まだほんのわずかだ」

「学んでいる最中なんだ。数年後にはもっとわかっていると思う」

と語っています。(Chrisの講演ビデオは3年半前、2010年6月に収録されたものです)

デジタルマーケティングでは、この姿勢こそ大切なのでしょう。

実際に色々なことにチャレンジする。その体験から謙虚に学ぶ。

戦略を立てた上で、これをひたすら愚直に実行し続けたことで、スターバックスがソーシャル活用で他社を圧倒するようになったのだ、と改めて思いました。
 

 

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