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実は5度目の挑戦だった「セブンカフェ」。その試行錯誤・仮説検証の歴史を調べてみた

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昨日のブログで、「セブンカフェ」の凄さを数字面から見てみました。

「セブンカフェ」の展開が始まったのは2013年1月。コンビニカフェとしては最後発。しかし、セブンは必ずしも焦っていませんでした。

セブンで当時開発を担当した高橋広隆さんは、次のように述べています。(*1)

「コーヒー好きの自分が毎日飲みたくなるものを作りたかった。けれど、セブンが手がけてきたフレッシュコーヒーの歴史は、試行錯誤の連続。セブンカフェ発売までの2年以上に及ぶ開発期間は、その過程をきちんと学ぶことが、一番大切な仕事だったんです」

実際、セブンは30年前から入れたてコーヒーの販売を手がけてきました。

開発すること実に4度。それでも販売は伸び悩み、やがて店頭から姿を消したのです。(*2)

私は「セブンカフェ」が成功した要因は、開発に2年間をかけて万全を尽くしたことに加え、セブンの真骨頂である仮説検証プロセスを通じて得られた学びの蓄積があったからだ、と思います。

 

ではセブンはどのように仮説検証で学びを蓄積してきたのでしょうか?

その詳細情報は、恐らくセブンの企業機密。私たちが全てを入手することは難しいと思います。しかし、メディア情報から、かなりの程度は推測できるはずです。

そこで調べてみました。以下は調べた結果を繋ぎ合わせたものです。出典は明示していますが、私の推測も入っていますのでご了承ください。(セブンは最近までメディア露出を抑えていたので、一部不明な部分もあります)

 

■挑戦その1:サイフォンでつくりおき、小分け方式 (1980年代前半頃)

30年前からセブンは店頭でコーヒーを出していました。下記は1983年当時の日経ビジネスに書かれていた記事からの抜粋です。(*3)

---(以下、引用)---

「7846杯」。都内にあるセブンーイレブン加盟店が某月1ヶ月に販売したコーヒーの量である。一日で約260杯。平均的な喫茶店のコーヒー販売量は一日50-100杯というから大変なもの。こまめに足を運ばれる方には良くおわかりと思うが、最近、セブンーイレブンではこのコーヒーをはじめ、弁当、ハンバーガー、サンドイッチなど手を加えずに即座に食べられる商品の品揃えが急速に抱負になりつつある。

---(以上、引用)----

現在セブンの店頭でおなじみの原型が、既にここにあります。「お客様が集まるところには、ビジネスがある」のですね。

この頃は、コーヒーサイフォンであらかじめコーヒーを作りためて、注文があると“小分け”する方式でした。(*4)

 

■挑戦その2:ドリップ方式を導入 (1988年)

しかしこの方法は問題がありました。1988年の日経流通新聞に詳しい記事(*4)がありましたので、引用します。

【サイフォン小分け方式の問題点を検証】
味覚と香り保持のため、店舗の運営マニュアルでは一時間ごとに作り替えることになっていましたが、商品の回転が落ちる店や時間帯では必ずしもマニュアル通りに実行されないケースがありました。


【新たなチャレンジ】
そこで、注文を受けてから入れるドリップ方式に切り替えることにしました。「ドリップ方式だと、サイフォン小分け方式の問題点を以下のように克服できる」と仮説を立てたのですね。

(1)常に新鮮さが保てる
(2)余ったコーヒーを捨てる必要がなくなりロス率が下がる
(3)衛生管理が容易になる

→この結果、コンビニ業界に広がる「入れたてコーヒー市場」で優位に立てる

このため、木村コーヒー店がセブンイレブン用に開発した「ニュードリップコーヒーマシーン」を使用しました。「木村コーヒー店」とは、翌1989年に社名変更した、あの「キーコーヒー」のことです。

さらにコーヒーの種類を一種類から「ライト」「ミディアム」「ビター」の三種類に増やしました。

この「ニュードリップコーヒーマシーン」は、3500店舗に導入されました。

 

■挑戦その3:カートリッジ方式を導入 (1990年頃)

【ニュードリップマシンの問題点を検証】
焦げたような香りが店内に漂ってしまう点が問題だったようです。(*1) 調べる限り、詳しい情報はメディアからは見つかりませんでした。もしご存じの方がおられましたらお知らせ願えれば幸いです。

 

【新たなチャレンジ】
この問題を解決するために、1990年代にカートリッジ方式が考えられました。(*1)

 

■挑戦その4:「バリスターズカフェ」の立ち上げ (2000年代)

【カートリッジ方式の問題点を検証】
カートリッジ方式では粉を粉末状にしなければならず、肝心の風味が飛んでしまい、納得のいく味になりませんでした。(*1)

さらにこの時期、スタバなどのカフェが大人気。エスプレッソやカフェラテが、消費者に受け容れられ始めました。

 

【新たなチャレンジ】

2002年には数店舗でセルフ方式のエスプレッソコーヒー「バリスターズカフェ」を開始。カフェラテもメニューで用意しました。(*5) 一部店舗では、店舗奥にカウンター10席程度のイートインコーナーも設置。(*6)

2005年には関西・東海地区中心に約1000店。(*6) 最終的にはオフィス街を中心に2000店に展開されました。(*1)

 

■挑戦その5:「セブンカフェ」(2013年)

【バリスターズカフェの問題点を検証】
「バリスターズカフェ」は安定した人気がありましたが、それでも店舗あたり1日25杯しか売れませんでした。さらに店舗のコーヒー売上比率は、缶コーヒー 97%に対して、わずか3%。

ビジネス面では決して満足いく結果ではありませんでした。(*1)

セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長は、記事の取材で詳細な分析結果をお話ししておられます。(*7)

---(以下、引用)---

これまで展開してきたコーヒーサーバーの味わい、オペレーションなどの課題を再度見直した。先行して約2000店で展開しているエスプレッソタイプ(圧力抽出式)の『バリスターズカフェ』は若い世代を中心に一定の客層の取り込みに寄与するものの、独自の調査で日本人の嗜好にはペーパードリップ式の方が合うということがわかった。

 圧力抽出式は抽出過程で豆の微粉が出るため、雑味の原因となる。女性やシニアを含め、幅広い層の嗜好に合う本格的な味わいで、新しい消費を喚起できるコーヒーを目指した。

---(以上、引用)---

確かにエスプレッソは美味しいのですが、万人向きではありません。

そこでセブンは、もっと幅広い客層にアピールするために、「美味しく、飲みやすい本格派コーヒー」を目指したのですね。

 

【新たなチャレンジ】
そこで、2年間の開発期間をかけて、満を持して2013年に発表したのが「セブンカフェ」。

日経記事(*7/*8)によると、

・まず味の素ゼネラルフーヅ(AGF)に声をかけ、外食など200社のコーヒーの味を徹底分析し、飲みやすさと飲み応えの最適なバランスを見つけた。

・さらに電機、焙煎技術を持つメーカー、商社とチームを組み専用コーヒーマシンを開発。

・2012年8月から北海道/秋田県/鹿児島県で先行導入。2013月1月27日までに北海道全861店含む1799店で展開。

・実施した結果は... スタートの2012年8月は1日店舗あたり平均54杯で推移。さらに北海道地区の客数は全国平均を上回った。(9月は6.3%増、10月は4.0%増、11月は2.9%増、12月は3.8%増)

・加えて、缶コーヒーやチルド飲料などとカニバリも起さず、セブンカフェが売上に上乗せとなった。

・また北海道では、調理パン売上が3割増、スイーツが2割増だった。コーヒーとの買い合わせを訴求できる。

これらの結果から、「新しい利用シーンを創出できる」と考え、全店導入を決定したのですね。

 

このように見ていくと、コンビニ各社が「コンビニコーヒー」を次々と出していく中で、最後発のセブンが全く焦っていなかった理由がよくわかります。

実はコンビニ各社の中には、今でもポットの小分け方式で出している店もあります。これは1980年代にセブンが既にやっていた方式。セブンは他社を大きく先行しています。

一見、簡単に見える「セブンカフェ」ですが、30年間におよぶ現場での周到な仮説検証の積み重ねを振り返ると、年間4.5億杯・500億円の大ヒット商品に育った理由がよくわかります。

 

この「粘っこい」とも言える執念は、成功している日本企業に共通です。これは日本人の美徳なのかな、とも思います。

セブンカフェから、「決してあきらめず、学び続ける」大切さを、改めて学びたいと思います。

 

出典
(*1) ..「アエラムック企業研究 セブンイレブン 勝ち続ける7つの理由 強さの法則」(朝日新聞出版)
(*2) ..「独り勝ちの秘密を徹底解剖 セブンの磁力」(週刊東洋経済 2013/7/13号) p.39-40
(*3) .. 「ケーススタディ-セブン-イレブン・ジャパン-どこまで続く「商人」と「企業」の2人3脚」(日経ビジネス 1983/02/21号 p.78)
(*4) ...「セブンイレブン、注文受けてから入れます――コーヒー販売一新。」 (日経流通新聞 1988/11/10)
(*5) ..「セブン-イレブン、超都心の昼食対応「丸の内センタービル店」で試み」(日本食糧新聞 2002/08/28)
(*6) ..「セブン-イレブン、都庁舎にイートイン導入店舗を開店」(日本食糧新聞、2005/02/04)
(*7) .. 「セブン-イレブン・ジャパン・「セブンカフェ」を全店導入へ 差別化商品・付加価値商品開発の一環」 (日刊流通ジャーナル, 2013/01/30)
(*8) ..「「後追い」逆転も得意技――焦らず、外部と作り込み(セブンイレブン40年)」(日経MJ 2013/11/13)


 

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