実は今後の通信業界勢力図のキャスティングボートを握っていたイー・アクセス
2012/10/2、ソフトバンクがイー・アクセスを買収することが発表されました。
ソフトバンクは時価総額の3倍強となる1800億円をイー・アクセスに提示。先行するKDDIとの買収合戦に対して、出遅れたソフトバンクが急速に巻き返して制する結果になりました。
買収によりソフトバンクは携帯電話契約数で2位のKDDIに迫ります。しかし買収目的は単なる契約数獲得だけではないようです。
2012/10/2の日本経済新聞の記事「ソフトバンクがイー・アクセス買収、1800億円、電波争奪戦を制す」によると、背景にはスマホの電波争奪戦があります。
ちょっと長めの引用ですが、重要なポイントが網羅されていますのでご紹介します。
---(以下、引用)---
「基地局数でも電波を受けられるエリアの広さでも競合他社を上回る」。ソフトバンクの孫正義社長は1日、都内で開いた記者会見で経営統合のメリットを強調した。
ソフトバンクが狙うのはイー・アクセスが3月から高速携帯電話サービス「LTE」を始めた1.7 GHz帯の周波数。同周波数帯は米アップルが新型スマホ「iPhone 5」で世界標準の電波に指定しており「これまでと価値が全く変わった」(孫社長)。
ソフトバンクは現在、LTE向けに2.1 GHz帯の電波を使っているが、イー・アクセスとの経営統合で1.7 GHzも使えるようになる。端末はつながりやすい周波数帯を選んで接続することになり、「利用者にとってスマホの商品価値が上がる」(孫社長)。
(中略)
ソフトバンクにとってイー・アクセスをKDDIに奪われるのは死活問題だった。ソフトバンクは7月、「プラチナバンド」と呼ばれる900 MHz帯の周波数の運用を始めたが、それでもNTTドコモとKDDIに比べて電波の割り当てが少ない。KDDIがさらに電波を増やせばiPhoneの販売競争で後手に回るのは確実だった。
(中略)
ソフトバンクの孫正義社長は「企業価値を適正に評価した」と強調。イー・アクセスから新しい周波数帯や顧客基盤を獲得できるほか、ネットワークの共用などで、企業価値は7220億円に達するとソフトバンクはみる。つまり、買収で得られるインフラなどの価値を評価したわけだ。
---(以上、引用)---
この記事を見ると、ソフトバンクにとってイー・アクセス買収がいかに重要だったかがよく分かります。そしてその背景にはiPhone 5のLTE対応があったということです。
翌2012/10/3の日本経済新聞の記事「楽天からも買収提案、ソフトバンクと統合するイー・アクセス」では、買収される側となったイー・アクセスの千本会長の談話が掲載されています。
一般的に弱い立場とみられる買収される側が、実は今後の通信業界勢力図を決める上でキャスティングボートを握っている様子が分かる貴重な談話です。
---(以下、引用)---
「具体的に話が動いたのはこの1~2週間。ソフトバンクがiPhone 5を発売し、テザリングを実施すると決めた後、孫正義社長から直接連絡があり、一気に盛り上がった」
(中略)
(ソフトバンクに決めた理由は)
「当社が持つ1.7 GHz帯の周波数は高速携帯電話サービスのLTE向けに世界で最も使われる『宝の山』だ。ソフトバンクはこの周波数を最も良く活用し相乗効果を発揮できる。通信インフラもスウェーデンのエリクソンや中国の華為技術(ファーウェイ)など同じ事業者のものを使っているため、統合が早く進みコスト削減を図れる」
「ソフトバンクは他社に比べ交渉の反応も早くとても情熱的だった。当社とDNAが似ていると感じられ、スピード感があったことも決め手の一つになった」
---(以下、引用)---
当初、ソフトバンクはiPhone 5でテザリングを行わない方針でしたが、孫社長が急遽テザリング対応を発表したのが9月19日。そこから買収発表までわずか2週間。
千本会長が「具体的に話が動いたのはこの1~2週間」とおっしゃるタイミングとピタリと一致します。
実際にはそれぞれの立場で表に出てこない様々な思いがあることと思いますが、経営の立場で考えると、ソフトバンクによるイー・アクセス買収はまさに両社にとってWin-Winの関係だったことがよく分かります。
記事の最後で、千本会長は次のように語っておられます。
---(以下、引用)---
「.....もともと自力の成長戦略を取っていたが、ソフトバンクとの経営統合で相乗効果が高まり、社員が活躍できる場も広がると感じている」
---(以下、引用)---
社員を預かる経営者の立場では、恐らくこの視点がとても大切だったかと思います。