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ベストプラクティス?それって猿真似かも?

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2012/10/10の日本経済新聞の記事「経営塾 業績回復に挑む(5)総括」で、一橋大学の楠木建教授が2004年に日本マクドナルドのCEOに就任された原田泳幸さんの経営変革について書いておられます。

----(以下、引用)----

....ホットアップルパイなどの「100円マック」メニューを導入した。「デフレをとらえた大胆な戦略」「価格競争で利益を圧迫」など賛否両論を招いた。だがいずれも素人談議だった。100円という値づけは一要素にすぎない。背後には練り上げられた戦略ストーリーがあった。全体をみなければ原田氏の戦略の真価はみえない。

----(以上、引用)----

記事によると、以下のような戦略ストーリーがありました。

まず、不採算店舗の閉鎖を凍結
→QSC(品質・サービス・清潔さ)の基本に専念
→作りたてのメニューを提供できる新システムを全店展開
→その上で、100円メニュー導入
→直後は客単価低下するも、前経営陣の際の離反顧客を呼び戻し、新規顧客も定着
→固定客化
→新商品(クォーターパウンダーやプレミアムローストコーヒー等)を提案
→最後は主力商品のビックマックに誘導、確実に儲ける
→体力が付いたら特別損失計上で不採算店舗を一気に閉鎖
→負の遺産を一掃

このような全体ストーリーが見えると、個別に「100円メニューの是非」を議論してもあまり意味がないことはよく分かります。

楠木教授は以下のように続けておられます。

----(以下、引用)----

 個別のアクションの正否は戦略のストーリー全体の中でしか判断できない。ストーリーの戦略思考からすれば、そもそも「ベストプラクティス」(最良の実践例)などというものはあり得ない。

----(以上、引用)----

楠木教授が述べておられるように、「全体を流れるストーリー/シナリオがあって、はじめて個々のアクションの意味がある」というのは全く同感です。

 

私も、過去のいくつかの成果が出た仕事について、色々な方々からその要因を尋ねられることがあります。

その場合私は、「こんな課題があって、周りはこんな状況で、解決シナリオをこのように考えて、そのシナリオを実現するための各アクションをこのように作って繋げていった」というお話しをします。

しかし、「全体の話はいい。私が聞きたいのはそのアクションのxxxxx。ウチも同じことをやりたい。どのようにそのアクションをやったのか、そしてどのように成果に繋げたのか、具体的に教えて欲しい」と聞かれることがよくあります。

でも各アクションは、全体のシナリオがあってはじめて相乗効果を生み出します。各アクションを個別に実施しても効果は出ないのですよね。

逆に何らかの自分のシナリオを持ち、そのシナリオを実現するためのアクションを作り込む際に、他の人が成果を上げたアクションを参考にする、というのはアリだと思います。逆にゼロから作るよりもずっと確実で、品質も高く、展開も早いことが多いかもしれません。

ですので、「ストーリーが大前提」という楠木教授のご意見は全く同感です。

 

シナリオを持たずに個々のアクションを考えても、それはベストプラクティスではなく、言い方は悪いですが、単なる猿真似に陥る危険性があります。

さらに言うと、ちょうど一人一人の人生が全て異なるように、ストーリーは状況によって千差万別です。

このように考えると「ベストプラクティス」から学ぶべきことは、その状況でどのようにシナリオを考えて作り込んだかであり、シナリオや各アクションそのものはそのまま展開できるものではないのかもしれません。

 

 

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