福島原発の問題は、これからが本番.... 田坂広志さんの日本記者クラブでの講演 『福島原発事故が開けた「パンドラの箱」』(講演動画+資料)
世の中には、ともすると、「やっと福島原発事故は一段落した」という楽観的な空気が広がっています。
しかし、実際にはそうではない。
そのことを痛感させられました。
3月末から9月2日まで、内閣官房参与として原発事故対応に尽力された田坂広志さんが、10月14日に日本記者クラブで、メディア関係者を集めて、『福島原発事故が開けた「パンドラの箱」』という講演をされました。
インタビュー動画はこちら(1時間強です)
インタビュー資料(PDF)はこちら
ずっしりと響きました。
私はPDF資料を見ただけでも、ショックを受けました。
しかし、1時間の講演を収録した動画では、さらに深い気付きをいただきました。
最初に田坂さんは、『最大のリスクは、「根拠のない楽観的空気」である』と述べられています。
世の中には、『「冷温停止の年内前倒し達成」で、やっと原発問題も一段落』という空気があります。
しかし、たとえば、自宅が火事になったことをたとえると、「冷温停止」は、この大火事がとりあえず鎮火した段階。
火事の場合、本当に大変なのはその後です。実際、私は中学1年の時に、父の田舎の実家に泊まっていた時に火事に遭いました。
幸い一家全員命は無事でしたが、本当に大変だったのは、鎮火した翌日からでした。ちょっと考えただけでも、翌日からどこに住むのか、全焼した財産はどうするのか、火元になった隣との関係は、新しい家を建てるお金の工面は、...など。さらに永井家に先祖代々伝わる資料もすべて喪失したのです。
では、福島原発では、何が課題なのか。
田坂さんは、それらの課題を分かりやすく具体的に、様々な事例を挙げて説明していきます。
ごく一例を挙げると、福島第一原発事故で最も危険だったのは、マスコミが競って状況を報じた稼働中の1号炉~3号炉ではなく、停止中の4号炉でした。
3週間前に当ブログで『「首都圏3000万人の皆さん、今すぐ避難してください」→その時どうする?』というエントリーを書きました。
実は3月末の時点でも、現実に首都圏3000万人避難のシナリオがあったそうです。
その原因が、停止中の4号炉にありました。なぜか。
格納容器で核燃料がしっかりと守られている1号炉~3号炉と異なり、4号炉では使用済燃料プールに保管されています。
燃料プールの冷却機能が喪失すると、燃料は剥き出しのままメルトダウンを起すことになります。その場合の被害は、1号炉~3号炉の水素爆発の比ではありません。首都圏3000万人避難のシナリオが現実にあったのです。
幸い、現場の方々による必死の作業で、冷却機能は守られ、最悪シナリオは回避できました。耐震強化工事も行われました。
しかし、たとえば今、福島第一原発を同規模の地震と津波が襲ったら、ふたたび持ちこたえられるのか?それは誰も分かりません。
また、考えるだけでも恐ろしいことですが、テロ対策はどうなっているのか?
今週発売のある週刊誌には、福島第一原発に作業員として潜入した記者が、「その気になれば原発には簡単に入れる」と語っている記事が掲載されています。
ちなみにテロに敏感な海外では、福島原発事故直後、自国の原発に対して、一斉に厳重なテロ対策が行われたそうです。
さらに、全国数十カ所にある原発の使用済燃料プールも、まったく同様の問題を抱えています。その対策はどうなっているのか?
これだけでもショッキングな内容です。
繰り返しになりますが、これは講演のごく一例です。
田坂さんは、この中で様々な問題提起と提言もなさっています。
講演の最後に、田坂さんは
『政府は、ともすると「依らしむべし、知らしむべからず」となっていた姿勢から、「国民の叡智を信頼する」という姿勢に変わるべき時期ではないか」
と提言しておられました。
これは、私たち一人一人にとっても、改めて自分たちが主体的にどのように考え、行動すべきなのかが、問われているのだ、と思いました。
これからの日本で大きな課題となる福島原発事故後の日本を考えるにあたっては、この講演は大きな視点を与えてくれると思います。