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お客様は神様?王様?それとも...?

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芝田さんが、「お客様は王様です」というエントリーを書いておられます。

芝田さんが書かれた内容には共感いたします。確かに私も使いにくいウェブサイトがあると「ええい面倒くさい」と画面を閉じてしまうことが多く、「王様」的行動を取っていたりします。(笑)

顧客優位な市場だったり、競合が激しい市場では、「お客様は王様」という状況になりますね。

 

実は、今年3月に上梓した「バリュープロポジション戦略50の作法」の第6章「お客様は神様ではない」を書いていた時期、私もこのことを考える機会がありました。(なお、この章はこちらで全文お読みいただけます)

この章を書いた際、当初は私も「お客様は神様」に対するメタファーとして「お客様は王様」と考え、いったんは原稿を書き上げました。

しかし、原稿を見直すと、何かしっくりと来ません。

何故なのだろう、色々と考えました。

 

原稿を数ヶ月間寝かせた後、理由が分かりました。本書で言いたかったことと微妙なズレがあったのです。

本書におけるコアメッセージ「バリュープロポジション」は、「顧客の価値を徹底的に考えて定義し、そこに、自社だけの価値を提供する」という考え方です。

色々と考えた末に、本書で伝えたかったポイントを改めてまとめてみると、

1.お客様は、自分のニーズを必ずしもすべて理解していない

2.全知全能ではなく間違うこともある

3.だから、お客様のことは、徹底的に理解することが必要である。

4.ただし、お客様の言いなりになってはいけない

5.実は、私たちは、お客様を主体的に選ぶことができる

1から3までは、芝田さんとほぼ同じ視点です。だから当初は「王様」というメタファーを考えていました

しかしよくよく考えてみると、4と5は「王様」というメタファーとは微妙に違うのかな、と思いました。

 

バリュープロポジションとは、自社が取り組む顧客の価値を「徹底的に考えて定義する」考え方ですから、逆に言えば、自社が提供できない顧客の価値には対応しないのです。

たとえば非常に単純化すると、富裕層に高付加価値サービスを提供する場合、低価格という顧客の価値は切り捨てています。deselectしているのですよね。

もちろん、王様の場合でも、仕えるべき王様を選べる場合もあるでしょう。しかし、先祖代々から王様に仕えていたり、国に王様が一人しかいない、という状況では、仕える王様を変えるのは容易ではないこともまた多いと思います。しかしお客様は、選んでもよいのですよね。

 

このように考えた結果、私がたどり着いたメタファーは、「お客様は大切なパートナー」

ちょうど、人生の大切なパートナーを慎重に選ぶように、顧客もじっくりと見極める。そしてパートナーとなったら、徹底的に相手のことを尊重し、理解し、できれば相思相愛の関係になる、ということです。(詳しくはこちらをお読みください)

 

ただ、これはあくまで1つの考え方。そして、理想論かもしれません。

現実的には、芝田さんが書いておられるように、自分のことを「王様」と思っている顧客が多いのが現実でしょう。

しかしできれば、お互いに大切なパートナーとして認知し、お互いを尊重し、相思相愛になる関係を築けるように、顧客に提供する自社の価値を考えていきたいものです。

「顧客が言うことは何でも引き受ける」ことが過当競争を生み出し、差別化ポイントを失わせ、「高品質なのに低収益」という皮肉な状況を生み出しているのもまた、事実だと思います。

スティーブ・ジョブスが作り上げたAppleは、ユーザーは心からApple製品を愛していますし、Appleもユーザーを尊重しています。まさにそんな会社なのではないでしょうか?

 

 

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