『低炭素社会を創るソフトウェア』という講演をしました
この土曜日、日本IBMの天城ホームステッドで『低炭素社会を創るソフトウェア』という演題で講演をしました。
「ん?ソフトウェアで低炭素社会実現?」
ピンと来ないかも、ですね。
マニュアルの反復作業を、プログラミングという技術を使って自動化できるのは、言うまでもなくソフトウェアが持っている価値の一面です。
この方法論を活用すると、従来の世の中の仕組みを大きく変えることが出来ます。
ただ当然ながら、従来の業務プロセスをそのままIT化しても、効率は若干よくなるものの、格段に高まることはありません。そしてよく見てみると、世の中にはそのようなIT化が結構あったりします。
従来、手作業前提の業務では必要と考えられていた作業ステップを、IT活用によって自動化することで、その作業ステップ自体をなくしたり、業務プロセス自体をより効率的なものに再設計することで、飛躍的な効率化向上を実現できます。
これは、1990年代に生まれた「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」(BPR)の考え方そのものですが、この考え方自体は今でも有効です。
2007年に総務省が出した情報通信白書では、この点について日米企業の比較をしています。
当調査では、日米企業における業務・組織改革の実施状況の調査結果を掲載しています。合理化・見える化は日本は米国と同水準で成果を挙げているものの、組織・プロセスの変更を伴う改革は、日本は米国に大きく見劣りしているという結果が出ています。
この調査からも分るように、日本では、現行の手作業の業務をそのまま変えずにIT化することで、ある程度の合理化と見える化は実現できているものの、現在の仕組みや組織、業務プロセスに手を付けないために、ITが持つ本来の価値を発揮できていないケースが結構あります。
低炭素社会を実現していくためには、現在の仕組みそのものをITが持つ価値を活かして見直し、効率化を図って環境負荷を下げていくことが、一つの解決策になります。
では、そこでソフトウェアは何ができるのでしょうか?
ソフトウェアによっては、最適化技術を実装しているものもあります。
例えば、米国のあるメーカーでは、全米をカバーする巨大な配送ネットワークを、最適化ソフトウェアを使ってシミュレーションすることで、顧客納期(=サービスレベル)を維持しつつ、コストを3%削減し、かつCO2排出量も大幅削減する配送ネットワークを設計しました。
この顧客は、当初全米で2カ所に配送センターを持っていましたが、全米で最適な地域に2つの配送センターを増設し、センター同士を環境負荷が小さく大量輸送できる鉄道で結ぶことで、全体のCO2排出量削減・コスト削減・サービスレベル維持の全てを両立しています。
つまり、最適化技術を持つソフトウェアを活用することで、CO2排出量を削減しつつ、コスト削減とサービスレベル維持を両立しているのです。
州によって発電技術が異なるので、州によってkWh当りのCO2排出量は異なりますし、配送センター増設に伴う各種CO2排出量も考慮する等、非常に複雑なパラメータが絡み合っているので、人間が手作業でこのような最適解を導き出すのはまず不可能です。
さらに、ソフトウェアは見える化もしてくれます。
例えば、資産管理ソフトウェアでビル全体のCO2排出量をリアルタイムに把握することができます。
具体的には、ビルディング内のIT機器や空調装置をはじめとするあらゆる機器の状況を制御コントローラー経由で監視、集めたデータを資産管理ソフトウェアで分析してリアルタイムに見える化し、CO2排出量の異常値を把握して各種機器を制御(例えばスイッチを切断)したり、全体の傾向を判断してPDCAサイクルを回していくことも可能です。
さらに、ソフトウェアを活用することで、私達の働き方が大きく変わります。
例えば、最新のコラボレーション技術を活用すると、自宅でもあたかも会社にいるかのように仕事が可能ですし、テレプレゼンス技術で、お互いに出張をしなくても、あたかも実際に会っているかのように会議をすることも出来ます。
実際、私も自宅で仕事をすることがよくあります。これにより、コストと時間を削減しつつ、CO2排出量も削減できます。何よりも、プライベートの時間も充実します。
ちなみにこの仕組みによって、IBMは全世界で年間90億円の出張経費を削減しています。
さて、このように考えると、低炭素社会実現のためには、「人材」「業務」「インフラ」の3つの切り口で考えると分りやすいのではないでしょうか?
■「人材」は、コラボレーション技術等を活用して、いかに環境負荷をかけずに働くか、ということです。
■「業務」は、先程の配送ネットワークの例のように、いかに業務自体の環境負荷を下げるか、ということです。
■「インフラ」は、業務を支えるインフラの環境負荷を下げることです。例えばクラウド技術は、使用率が少ないサーバーを集約することで、ITのムダを大きく削減します。また先のビル全体のCO2排出量の把握もその例です。
鳩山さんが
「2020年までに1990年比で温室効果ガス排出量を25%削減する」
という方針を出しています。
実は1990年から2008年まで温室効果ガスは8%増えているので、実際には、2020年までの11年間で33%も削減しなければいけません。これって、すごく大変なことです。
一般に世の中では、
「CO2排出量を削減するためには、それに見合ったコスト増が必須」
という議論があります。
確かに、「乾ききった雑巾をこれ以上は絞るのは、もう無理だ」という見方もあるでしょう。
しかし視点を変えてみると、ITを活用することで、従来と全く違う発想でCO2排出量の削減が出来る大きな可能性があるのです。
サービスレベルを維持しつつ、コストを削減し、CO2排出量も削減するのは、確かに容易ではありません。
しかし、この困難なチャレンジを克服し、低炭素社会を実現するにあたって、ソフトウェアが果たす役割は非常に大きいのです。