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B2Cのよい値引きと、B2Bの悪い値引き

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十数年前、よく大阪に出張に行っていました。

大阪のナンバあたりを歩いていると、テキ屋が店頭で啖呵売をしているのを見かけました。

「この時計、きれいやろ。阪急デパートいってみいや。6万円や」

「このきれいな文字盤。天然オパールやで。」

「2万円でどや?」

「誰も買わないんかいな。じゃぁ、1万5千円でどや」

「なんやなんや、あしたは父の日やで。孝行しいや。買うたりや」

「天然オパールでっせ」

「1万円でどや」

「えーい、このキーホルダーもつけたる!」

「この万年筆もつけたる!」

「5000円にしたる。持ってけ、ドロボー!!」

(注:十数年前のことで記憶があやふやですし、そもそもこの関西弁、関西の方からすると変で、気分が悪くなるかも知れません。ご指摘いただければ幸いです)

という数十分間の独演会をお客はニヤニヤして見ながら、最後は皆さん次々と買っていきます。

 

このように芸の領域まで高められた楽しい値引きも世の中にありますが、一方で、こんな記事を見つけました。

「SEを潰した値引き 信頼も連帯感も消えた」

簡単に内容を紹介すると、

・あるコンサルが、ベンダー3社からの提案価格の妥当性をチェックするように依頼があった

・企業の要件を洗い出して精査、X社の提案が妥当と結論したが他社より高かったので、不要な機能を削る等の作業の結果、価格を下げ予算内におさめることができた。一緒に作業したX社の信頼も得、プロジェクトも盛り上がり始めた

・発注元の社長は、「ありがとう。ここから商売人の交渉を見ていてください」と言って、ディスカウントショップの発想で、さらに1割近く値切った

・ベンダーは受注できたが、赤字案件になり、会社の中でも立場が苦しくなり、メンバーから表情が消えた。積極的だったプロジェクトメンバーも、最低限のことしかやらなくなった。

・「最低限の動くもの」は出来たが、完成度は低かった。

・発注元の企業はわずか1割近く値切ったばかりに、その数倍の損をした

ううむ、なかなか辛い話ですね。

B2C等の世界で仕入れ値が決まっていて、どの価格で最低限の利益が得られるか明確な商品の価格付けの場合と、B2Bの世界のサービスの価格付けの場合は、全く違うように思います。

例えば、店頭で値切った商品は、値切ったからといって、性能が劣化することはありません。

また、赤字になるような過度な値引きを要求するお客様に対しては、「ごめんなさい」とお断りすることもできます。店からすると、そのお客様に売るために先行投資をしていない(さらにコミットしていない)ので、辞退も簡単です。

先のテキ屋のケースも、恐らく売っているのは非常に安く仕入れたバッタ品なので、5000円で時計+キーホルダー+万年筆を売っても、十分に利益が出ている筈です。

 

一方で、B2Bでシステム構築サービス等を行う場合は、価格の大部分は人件費になります。

従って、サービスを値切られた場合は、作業項目を減らすか、利益を削るか、人件費を削るか、のいづれかの対応になります。

先の例では、コンサルの方が作業項目を減らす努力をしました。この段階で、利益・人件費には手を付けていません。

その後、発注元の社長はさらに値切りました。その結果、作業項目をギリギリまで削っているベンダーは利益を削るしか方法がなく、赤字案件になってしまったことになります。もしかしたら、人件費にも手を付けている可能性もあります。

我々は「それなら、受注しなければいいじゃないか」と思い勝ちです。

しかし、大型案件の大詰めで選定ベンダーが自社だけになったりした場合、ベンダーは受注確実と見て先行投資をすることもあります。

他にもB2Cの世界にはないB2B独特な会社同士のしがらみや利害があって、採算割れになったからと言って則辞退する訳にいかない状況も多いようです。(ただ会社によっては、受注時に、赤字案件は一切認めないという規則を徹底しているところもあります)

まぁ、この業界では非常によくある話であるとは思います。

結局、このようなことを避けるためには、よく言われることではありますが、いかにお客様の課題を深く把握し、お客様の課題を的確に解決できる品質の高いソリューションを提案し、ある程度高くても喜んで契約していただけるようにして、価格勝負を避けるか、が勝負なのでしょうね。

他に、お客様毎の個別対応ではなく、提供するサービスそのものを標準化してコストを低くしコスト割れを防ぐのも一つの方法でしょうね。

いずれも言うは易く行なうは非常に難し、ですが、IT業界全体が求められていることでもあります。

それでも値引きされた場合は....ううむ、苦しい....。

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