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MacBook Airの「演繹法的発想」開発手法は、ビジネス分野でも参考とすべき

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MacBook Airが発表されました。

一番薄いところで厚さ4mmというのは、ちょっと驚きです。

私が愛用しているThinkPadとは重量は変わらないので、私自身は購入意欲はそれほどかき立てられませんが、Mac大好きの方々は早くも注文している人も多いようです。

 

私が今回のAirで改めて感じたのは、iPod/iPhoneでも感じたApple製品開発陣の割り切りの潔さとその発想方法です。

例えば、Airのネットワーク接続は無線LANのみでEthernetポートはありません。Ethernetを使う場合はUSB経由です。

同様にMacには必ず付いていたFirewire(IEEE 1394)ポートもありません。

DVDドライブもなく、DVDを使用する場合は、自宅等の他パソコンのDVDドライブをネット経由でマウントして使うことになります。

しかし、Airに心を奪われてしまったユーザーは、このような制限も喜んで受け入れるのではないでしょうか?

思い起こせば、iPodも同様で、パソコンを持っていないとそもそも使えません。iPhoneもiTMSでアクティベートするのが前提なので、パソコンがないと使えません。

普通の発想からすると、つい「パソコンが使えないユーザーへの対応はどうする?」と考え勝ちですが、この割り切りのよさ。

これって、そもそも発想方法自体が異なるのではないでしょうか?

 

典型的な製品開発の考え方は、このような感じではないでしょうか?

・出来るだけ多くの顧客ニーズを集め、分析する

・顧客ニーズを最大限満足する製品設計を行う

⇒結果、顧客ニーズをほぼ完璧に満たした製品が誕生する。しかし八方美人的製品であり、安心だが、割とそのような製品は他にも選択肢が多い。競争も激しい。

つまり、ニーズを積み上げて個別に対応する考え方です。「演繹的帰納法的発想」と言い換えることも出来ます。

一方で、AirやiPod/iPhoneの製品開発における考え方は、恐らくこのような感じではないでしょうか?

・少数のトップノッチ・デザイナーが、感性に訴える最終デザインを最初に決める

・デザインコンセプトによって生じる制限事項への対応方法を考える (AirのDVD活用のケース)

・予め絞り込んだ対象セグメントを考慮し、制限事項が対象セグメントで大きな問題とならないと判断した場合、あえてニーズを切り捨てる。(iPodやiPhoneがパソコンがないと使えないケース)

⇒結果、「尖がった」製品が出来上がる。ワクワクさせる。絞ったセグメントに大量の開発・マーケティング・リソースを投資し、競争に打ち勝ち、そこを橋頭堡にして拡げる

これは最初に完成形を決めて、それを実現するために必要なことを考えていく考え方で、「帰納演繹法発想」と言い換えることもできます。

ますます感性が問われていくコンシューマー分野では、帰納演繹法的発想に基づく開発手法は重要になってきています。

1年前にこちらでも書きましたように、日本でも、個々のニーズを切り捨ててでも当初の製品コンセプトを実現する帰納演繹法的発想で成功した製品は多くあります。

それまで必須と考えられてきた録音機能を捨てて新市場を作ったウォークマンなどは、その中でも最たるものかもしれません。

従って、「帰納演繹法的発想」は、決してアップル等の欧米企業の専売特許ではありません。

 

一方のビジネス市場では、個別のビジネス・ニーズ対応が重要であり、前者の演繹帰納法的発想が主流でした。

しかし一方で、各種調査では、経営ビジョンを実現するためのビジネスモデル策定が急務と考える経営者が増えてきているのも事実です。

これを実現するためには、例えば、「経営ビジョン⇒ビジネス・モデル・デザイン⇒業務設計⇒ITインフラ設計⇒実装⇒社内展開」という流れで経営変革を行っていくことになります。

これは、まさに「帰納演繹法的発想」です。

このように考えると、ビジネス分野でも、AppleのAir/iPod/iPhone製品開発の考え方は、大いに参考になるのではないでしょうか?

 

2008/1/18 12:40修正: 「演繹法」と「帰納法」の使い方が逆だったのを訂正しました

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