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無農薬の神話?

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いま、世の中ではオーガニック食品が流行っています。

オーガニック系食品店や大手スーパーでは無肥料・無農薬の有機野菜が売られています。

その多くは通常の野菜よりやや高めですが、「健康はお金には代えられない」と考える人達に支えられて、いわゆるオーガニック市場はここ数年で非常に伸びているように感じます。

かく言う私も、出来るだけ無肥料・無農薬の食事をいただくようにしていますし、オーガニック系の店のゆったりした感覚が好きで、よく店に入ります。

ところでこの無肥料・無農薬の有機野菜、一般的には、「身体に有害な化学肥料や農薬を使っていないので安心だし、肥料に頼らずに野菜が持つ本来の力だけで育っているので美味しい」と思っている場合が多いと思います。実際、私もそのように考えていました。

しかし、本当に身体によいのでしょうか?

8月29日の日刊工業新聞の記事「無農薬の神話 野菜・果物にも発癌性」で、東京大学の唐木英明名誉教授が科学者の立場で検証を行っています。

---(以下、引用)---

...有機野菜は何が良いのだろうか。味が良い、栄養素が多いなどと言われるが、実はそれを証明した科学論文を見たことがない。では安全性が高いのだろうか?そうでないことを示す有名な論文がある。

 毒性学の第一人者であるカリフォルニア大のエイムズ教授は90年に米国科学アカデミー紀要に次のような論文を発表している。

 すべての野菜や果物は多くの化学物質、すなわち「ファイトケミカル」を含んでいる。害虫や細菌から身を守るための天然農薬だ。

 教授はそのうち52種類を調べたところ、27種類に発癌性があった。その中にはパセリなどのメトロキサレン、キャベツなどのアリルイソチオシアネート、ゴマのササモールなどがある。

(中略)

 米国人が食べる野菜や果物の料から計算すると、毎日1人平均1.5グラムの天然農薬を食べている。これは残留農薬の1万倍以上になる。

 野菜や果物に天然の農薬と人が散布した農薬が合計1グラム含まれるとすると、無農薬野菜はそのうち0.0001グラムを減らすだけで、天然農薬の0.9999グラムはそのまま残っているのだ。しかも天然農薬の約半分には遺伝子を傷つけて癌を引き起こす作用があるが、人工農薬にはない。

 このように、食品安全の立場からは無農薬栽培には何の意味もない。野菜が持つ化学物質の危険性を避けるためには、いろいろな種類の野菜をバランスよく食べることであり、これは昔からやってきたことだ。

(中略)

自然の物質なら安全だが、人工の化学物質は危険。そんな話も聞くが、それは全くの誤解だ。化学物質の作用は量で決まる。この原則は、どんな化学物質にも当てはまる。いわゆる健康食品も、ビタミンでさえも、食べ過ぎれば危険であることを十分に理解することが大事だ。

---(以上、引用)---

「有機野菜は何が良いのだろうか。味が良い、栄養素が多いなどと言われるが、実はそれを証明した科学論文を見たことがない。」

ということですが、私は以前、初めて有機野菜を食べて、その美味しさに驚いたことがあります。

農薬を一切使わない畑に生っている野菜をその場で食べたこともありますが、この場合もいつも店で買う野菜とは全く異次元の美味しさでした。

また、完全無肥料・無農薬栽培の畑は生態系が非常に豊かだったのに対して、肥料・農薬使用の畑には虫がほとんどおらず「静か」な印象を受けたことを思い起こします。

しかし一方で、確かに私達は「化学物質」という言葉だけで「悪い」という先入観を持ち勝ちです。

この「無肥料・無農薬信仰」、もしかしたら、20世紀の科学万能主義が、先進国の世界各地で発生した公害により破綻したことによる反動かもしれません。

魚の場合も、我々は飼育の過程で抗生物質を投与されている養殖魚と比べて、自然に育った天然魚の方がよいと思いがちですし、実際に天然魚の方が価格が高いようです。しかし一方で、「どんな病歴があるか管理されていない天然魚よりも、ちゃんと管理されている養殖魚の方が安全」という意見もあります。

「科学万能主義」の行き過ぎが、現代の社会の歪みを生んでいる傾向は否めません。

しかしその一方で、「自然万能主義で、科学を一切否定する」という考え方も、行き過ぎると「科学万能主義」同様の歪みを生む危険性もあると思います。

まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」

本エントリーでは、有機栽培の是非を問うのは差し控えますが、一方的な先入観や思い込みに踊らされて極端から極端に走らずに、客観的な情報を元に自分自身で考えて行動する人間でありたいものです。

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