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追加投資せずに、効果的な新製品開発を行う方法

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先のエントリー『「まず技術は考えるな」小林製薬の新製品開発』で、小林製薬の「どろどろ開発」がいかに縦割り組織の弊害を克服し、多くの人の知恵を結集し昇華することで、革新的な製品を生み出すかを紹介しました。

同じ昨日(8/22)の日刊工業新聞の記事「自立型中小企業を目指して 社員の知 活用し製品開発」で、専修大学商学部の黒瀬直宏教授が社内の知恵を結集して新製品を開発する仕組みについて書かれていました。

小林製薬の「どろどろ開発」を理解する上でも参考になると思いますので、紹介させていただきます。

---(以下、引用)---

....従業員75人の愛媛県の企業は主製品麦味噌のほか、伊予柑をはじめ地元産食材を使ったドレッシングなどを開発・生産している。以前、この企業は社長自身が多い時には年20も新製品を開発、しかし売れるのはせいぜい1つだった。社長が開発、従業員に「売ってこい」、従業員が「売れませんでした」-という繰り返しだった。

....仲間から社長の独断専行を指摘され、従業員参加の商品開発会議を立ち上げた。初めは、ただ話し合っているだけで、何にも決まらなかった。社長は仲間の忠告どおり、口出しをせず、じっとがまん。やがて、この会議が機能し始めた。

 社長「宮崎の冷汁のようなものはどうだろうか」、社員「いや、愛媛は薩摩汁だ。私のおばあちゃんが作っている」。「おばあちゃん」に作ってもらった薩摩汁をみんなで試食し「これで行こう」。

 同社では開発会議の立ち上げ後、年平均二つの新製品を開発している。開発数は減ったが、すべてヒットしている。

 このように製品開発には皆の知恵が必要だ。

(中略)

 「分散認知」という考え方がある。認知活動は頭の仲だけでなく、頭の外を含めたもっと広い領域で起きていると考える。

(中略)

 認知活動に必要な知は、個人の頭の中だけでなく社会に広く分布している。....個人は他の人や人工物とコミュニケーションを行い、それらの知を利用して認知活動を行う。

 従って、認知活動の主体は個人だが、その個人はコミュニケーションを通じて構築される認知システムの一部と考えるべきだ。

 先の味噌メーカーが効果的な製品開発ができるようになったのは、お金をかけたからではない。外部の専門家を呼んだからでもない。もちろん、社長や社員の頭脳が突然よくなったからでもない。「開発会議」の設置により。分散認知の原理にのっとった情報発見システムを構築したからだ。

---(以上、引用)---

様々な形で仕事をなさってきた方々は、多くの人達との共同作業を通じ、仕事のアウトプットが格段に高まることを経験されていると思います。

例えば、3人で共同作業を行う場合、単に1人+1人+1人=3人分の成果を生むだけでなく、1人1人の知恵が共鳴しあい、3人分をはるかに超えた非常に品質の高いアウトプットを短時間で産むことがあります。

一人で考えることには限界があります。例えば、独裁とトップダウンのイメージが非常に強い織田信長も、家臣や民の声に非常に耳を傾けたそうです。

信長のような天才なら、様々な人からの情報を一人で処理し対応する能力を持っています。しかし、我々のような一般人でも、組織の壁を取り除き、お互いの知恵を出し合い、チームで対応することで、大きな成果が挙げられる筈です。

せっかくお客様が解決すべき問題について、様々な知恵を持っている人が社内にいるにも関わらず、その知恵が活用されずに埋もれてしまい、全体の成果に結びつかないのは、実にもったいないことです。

記事で取り上げられた愛媛の企業の場合、従業員や経営陣はそのままでお金もかけず、製品開発の仕組みを変えただけで、非常に効果的に新製品開発を行う企業に生まれ変わりました。

そのカギは、年間20もの新製品開発を自ら手がけてきた社長さんが、口出しせずにじっと我慢して、社員からアイデアが出てくるのを待っていたところにあるような気がします。

同様に、企業の中でコラボレーションを阻む組織の壁も、人の心が生み出していることが多いと思います。成功のカギは、意外に「エゴをいかにマネージするか」というところにありそうですね。

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