「実は、相手はビジネス文書は読みたくない」と思うべき
私は、入社1-3年目の新入社員だった頃、上司に徹底的にしごかれたモノがあります。
それは、ビジネス文書。
メールが今ほど普及していなかった頃なので、会議の案内や、プロジェクトの進捗報告等は、紙の文書で出していました。組織として出すので、上司の名前で書くことになります。
この文書を用意するのが私の役目で、まず文書をドラフトして上司に持っていきます。
この最初の段階で、徹底的に直されます。
曰く、「この書き方では、何を言っているか全然分からない」
曰く、「この部分は冗長だし、不要」
曰く、「この英語の文法はおかしい。基本的な文法。本当に英語を勉強したのか?」
曰く、「逆に、この英語は分かり難い。もっと簡単な言い回しが可能」
このように、一言一句、丁寧に直されます。
30分程かけて、赤ペンで真っ赤になったドラフトを持って、自分の席に戻って直し、再度持っていきます。
ここで、また直されます。
曰く、「こことここの論理構成がおかしい」
曰く、「全体が分かり難い」
曰く、「うーん、なんかオカシイ」
再度、赤ペンで真っ赤になります。
自分の席に戻って修正します。学生時代には文章にある程度自信があったのですが、粉々に打ち砕かれます。
今度はちょっと考えて、おかしいと思ったところは自分なりに直した上で、「次に修正と言われたら、本当にヤバいなぁ」と思って持っていくと、やっとOKが出ます。
この繰り返しが多かったような気がします。
確かに、修正指示されたところだけを直して、それをそのまま持って行っても、一度全体を見直すと全体の論理構成がおかしかったり、分かり難かったりします。当然のことですよね。
また、自分自身は、じっくり考えている積もりであっても、情報を正確に伝えようと思うあまり書き手の立場で一方的に情報を羅列しているだけで、その文書を読まされる他人の立場に立っていないことが、多かったように思います。
これを指摘されても、最初はなかなか分からず、どこをどう直せばよいかが検討がつきませんでした。
仕事で色々な相手とコミュニケーションしているうちに、「実は相手は、本音ではビジネス文書を読まないで済ませたいのではないか?」と気が付きました。
常に忙しいビジネス・パーソンにとって、ビジネス文書やメールを読まなくても相手とコミュニケーションでき、自分の仕事が進めば、それに越したことはありません。
しかし、常に相手とフェース・トゥ・フェイスでコミュニケーションを行うのは効率的でない訳で、我々はビジネス文書やメールを読まざるを得ません。
このような相手に対して、分量が多く分かり難いビジネス文書を送っても、なかなか読まれないと思うべきなのでしょう。
ビジネス文書は、相手にこちらの意図を理解していただいた上で、アクションに繋げていただくために作成されるものです。
このビジネス文書を受け取る相手は、私達が送るビジネス文書以外にも、他の人から送られた何十通・何百通ものビジネス文書を処理しています。
そのような相手にアクションを取っていただくためには、忙しい相手でも読めるような配慮、具体的には、分かりやすくて短く、かつ論理的で、一読して納得できることが必要です。
簡単なビジネス文書でも結構難しいのですよね。
私の場合、「実は相手はビジネス文書は読まないで済ませたいのではないか?」ということが分かったあたりから、上司からの修正指示が少なくなってきたように思います。
このことになかなか気付かなかった若い私を辛抱強く時間をかけて鍛えて下さった上司には、大変感謝しています。
関連リンク:「ビジネス文書や履歴書は、短く簡潔に」