ワイン試飲コーナーで考える、顧客中心主義のあり方
近所のデパートのワイン・ショップでワインの試飲コーナーがあります。私はワインは詳しくないのですが、最近はここでワインをよく購入するようになりました。
数ヶ月前まで、この試飲コーナーでは主に1,000円台のワインを出していました。やはり味は値段相応、あまり買う気が起きませんでした。
最近は2,000-3,000円台のワインが試飲コーナーに出るようになりました。この価格帯になると、中には驚くほど美味しいワインがあります。
加えて、試飲コーナー担当の方が本当にワインが好きな方で、自分の気に入ったワインを仕入れた上で、栓を空けてお客さんに提供し、それぞれのワインのいわれについて詳しく説明してくれます。
「買ってください」という感じは全くなく、「買い物の途中に、ワインを楽しんでください」といった感じです。
また、多くの試飲コーナーが使い捨て容器で試飲させるところを、この人はわざわざワイングラスを用意して試飲させてくれます。
曰く、「だってワイングラスで飲んでいただく方が、絶対美味しいですから」
この試飲コーナーに立ち寄る日は、かなりの確率でワインを購入しています。私達が試飲中も、この方の知合いのお客さんが次々に立ち寄り、ワインを買って帰っていきます。
考えてみると、以前は2,000-3,000円台のワインを見ても、味が全く想像できず、買う気が起きませんでした。今では、この店のどのワインがどんな味なのかが分かり、今日のこの料理にはこのワイン、という想像ができる様になりました。(但し、私はワインの銘柄を覚えるのが大の苦手で、もっぱら妻任せですが)
ところで、田坂広志さんが「これから市場戦略はどう変わるのか」他の著書で「ニュー・ミドルマン」の概念を紹介しています。
同じ仲介業者(ミドルマン)でも、メーカー側に立ち「自社の商品」を売ろうとする「販売代理」ではなく、顧客が「欲しい商品」を買うのを手伝う「購買代理」を行うのが、ニュー・ミドルマンです。
IT業界を考えてみると、我々はITベンダーとしてお客様に提供する製品・サービスはある程度は決まっています。つまり元々の出発点は「販売代理」を行う立場です。
一方で、ITが経営にますます重要になってきた現在、お客の課題を解決するパートナーとして、ITベンダーに求められる役割はますます重要になってきています。
さて、ワインの話に戻ると、このワインの試飲コーナー担当の方も、実際には会社からは「このワインを売るように」という指示を受けているそうですが、あくまで「一消費者」の視点で、自分が「美味しい」と思ったワインをお客さんに提供しているとのことです。
つまり、本来は会社からは販売代理の役目を求められているにも関わらず、自分の信念で購買代理を行っています。だからこそ、顧客から支持を受け、固定客が付き、顧客満足とビジネスを両立させているのではないでしょうか?
このワインの試飲コーナー担当の方を見ていると、どのような環境に置かれても、結局は個人としての考え方・信念が、顧客中心主義を貫けるか否かを分けているのではないか、と思った次第です。