なぜスティーブ・ジョブスは、顧客を熱狂させるのか?
私は個人的に、アップルのスティーブ・ジョブスは、コンシューマーを対象とするIT業界で最もマーケテイングに長けている一人だと思います。
禅の空の思想にも通ずる彼の新製品発表のプレゼンはまさに神がかり的。(彼のプレゼンの分析はこちら) 聴衆は彼の一挙手一投足を固唾をのんで見守り、予想もしなかった新製品発表に驚愕し拍手喝采し熱狂します。
7月5日のITmediaの記事『「ここまでやる」Appleの秘密主義』は、この秘密の一端を紹介したものです。
彼の話が聴衆を惹きつける理由の一つが、事前期待値をはるかに上回るサプライズです。このため、開発中の新製品について徹底した情報管制を行っています。
通常は、開発やマーケティングで協業するパートナー企業や大口のお客様に対して情報非開示契約等を交わし、製品発表前に情報提供を行うことが多いのですが、これも一切行っていないそうです。
これは、コンシューマー市場だからこそ、可能なのでしょうね。
法人ビジネスの場合はセールス・リード・タイムが長いためお客様は事前に情報がないと購買判断が出来ませんが、コンシューマー・ビジネスの場合は、お客様が「これを持ったクールな自分」を想像し、衝動的に買ってしまう傾向が強いようです。
以前より、購買行動を起こす際には、AIDMA (Attention-注意⇒Interest-興味⇒Desire-欲求⇒Memory-記憶⇒Action-行動)というプロセスを経ると言われていました。
最近はこれがさらに衝動的になり、消費者はM(記憶)するステップを通り越してそのまま欲求を覚えたらすぐに行動に移すようになっています。インターネットで簡単に商品情報や他ユーザーのコメントが入手でき、その場で購入できる環境も、これを後押ししています。
ジョブスは、この消費者の購買行動の変化を読み、お客様により新鮮でより大きな驚きを与え、熱狂的ファンにさせて、衝動的に買い続けるように、徹底した情報管制をひいているのかもしれません。
かく言う私も、衝動に抗しきれずにiPDDを買ってしまった上に、同僚や友人に見せていかにiPODが素晴らしいかを熱心に説明し、そのうち数名は購入に至りました。....別にiPODの宣教師をやるつもりは全くなかったのですが...。
『ポストモダン・マーケティング―「顧客志向」は捨ててしまえ!』という、ちょっと過激なタイトルがついた、顧客至上主義マーケティングに一石を投じる本があります。顧客の言うことに全て従うのではなく、顧客を無視するのでもなく、顧客に追い掛けられるようになる方法を具体的に解説しています。
スティーブ・ジョブスを見ていると、彼ならではのカリスマ性を活かし、アップル全社を挙げてまさにこのポスト・モダン・マーケティングを大掛かりに実践しているように思います。