シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

シリコンバレー駐在員と日本本社の間には深い溝がある

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 シリコンバレーは事業イノベーションのメッカであり、大企業のオープンイノベーションの重要な情報源として注目されている。IT分野だけでなく、自動車、金融、流通、医療などあらゆる産業分野の企業が駐在員を送っている。事業変革や企業革新の先導者として、駐在員の使命は大きくなるばかりだ。

 しかし、シリコンバレーの駐在員は、積極的に現地に溶け込む努力をしてもなかなかインナーサークルに入れず困っている。それを理解してくれない本社にも不満があるようだ。

 最近、そんな意識の高いシリコンバレーの駐在員たちが集まり、熱い議論が交わされた。彼らの言い分は本社に対して手厳しい。

 日本側が判断や意思決定をしない、あるいは遅い。「情報収集」という手段が目的化してしまい、「本来何のために情報を収集するのか」という目的が曖昧となる。本社から現地企業への「表敬訪問」は現地の駐在員の時間を取るだけでなく、コミュニティーでの評判も悪くなる。文脈の分からない日本側にシリコンバレーの事情を理解してもらうために、おびただしい資料・説明・調整に時間を取られる。などなど。

 しかし、本社にも不満がある。シリコンバレーから情報をもらっても、ちゃんと事情を説明してくれなければ意味が分からない、という。このように、シリコンバレーと本社の間には深い溝がある。

 その溝を埋めるには、戦略決定、人事権、予算のすべてを握っている本社が動く必要がある。

 日本側とシリコンバレー側がすれ違う原因は、そもそも日本的経営とシリコンバレー型経営の文化が異なるからだ。シリコンバレーは、個人中心で、自分のキャリアに合うように職を転じていく。事業の立ち上げではトライアンドエラーを素早く繰り返し、失敗を恐れない。失敗しても再チャレンジの機会がたくさんある。実力さえあれば、年齢に関係なく登用され、意思決定に大きな役割を果たす。

 一方、日本的経営は、シリコンバレー型経営のパラダイムとは正反対と言っていい。日本側の経営を見直さない限り、派遣された駐在員は日本側とアメリカ側の間で悩むことになる。だが、日本企業の仕組みをいきなり根本から変えることは難しいだろう。

 まずは、個人の意識が強くシリコンバレーにフィットする人材を登用し、シリコンバレーで駐在する人材が思いっきり邁進できるようなミッションを与え、任せてみたらどうか。その時、ローテーションの年数を日本の人事の都合に合わせず、コミュニティーにしっかり根を張れるように任期は柔軟なのが望ましい。「骨を拾ってやるから現地で頑張ってみろ」という経営トップのコミットメントがあればなおいい。そのためには、経営トップ自らがシリコンバレーの空気を吸い、表敬訪問ではなく自ら議論を交わすハンズオンの経験が大いに効果がある。

 難題は、シリコンバレーのインナーサークルにどう入るかだ。残念ながらインナーサークルには日本人はほぼ皆無なので、インナーサークルにチャネルを持つ一流のアメリカ人・現地人と信頼関係を築かなければならない。そのための鍵は、自身が意思決定の権限と予算を持つこと。意思決定がある程度自律的にできないとシリコンバレーでは信用されない。即断即決できる態度で現地コミュニティーに接すれば、交流も深まり、次第にインナーサークルに触れることができる。

 ホンダが高級車市場に参入することを決めた時、優秀な若い社員を数人抜擢し、大きな予算を与えてヨーロッパで遊ばせたという。富裕層のインナーサークルを経験せずして高級車のことは分からないだろう、と経営陣は考えたのだ。

 シリコンバレーに根付き、インナーサークルに入り込む日本人の駐在員が増えることを期待したい。

(日経産業新聞 5/9/2017)

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