シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

スタートアップによる社会問題解決

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 サンフランシスコの近郊に、世界的なワインの産地であるナパとソノマがある。そのナパ・ソノマ地域が山火事で大変なことになった。被害は甚大で、消失面積は東京23区の広さに相当する。焼け落ちた家屋は約7000軒、10万人近い住民が避難し、被害総額は7兆円以上だという。

 7兆円と言えば、アメリカの年間のベンチャーキャピタル投資に匹敵する。この技術革新の時代になすすべもない、とは何とも情けない話ではないか。専門家によれば初期消火が最も重要だという。山火事を防ぐベンチャー企業はないものか?

 森にたくさんのセンサーを設置して監視すれば山火事をすぐに発見できそうだ。ある起業家は「確かに最近のIoT(もののインターネット)のシステムを使えば実現は理論的には可能かもしれないが、土地が広大すぎてコスト倒れになってしまう」と話していた。さらに、対象とするデータも気象情報に加えて、木の乾燥度、火の気の有無など幅広く、分析・推測するのはハードルが高い。

 どうもスタートアップだけでは手に負えない問題のようだ。行政や大手企業を巻き込むことによって総合的に解決できないだろうか。

 そこで思い出したのが、私の知り合いのスティーブ・ブランクというベンチャー教育で有名な人物だ。その彼が最近力を入れているのが、政府機関へのベンチャー教育だからだ。

 ブランク氏は、8社のスタートアップに関わり、そのうちの4社を上場させた稀有の起業家だ。ブランク氏は自ら創業したスタートアップを上場させた後、新規事業創造の方法論である「リーンローンチパッド」を考案、その教育を始めた。彼の弟子のひとりであるエリック・リースが著した本がベストセラーとなり、「リーンスタートアップ」が広く知られるようになった。

 リーンローンチパッドとは、最低限のコストで製品・サービスを顧客に提供し、そのフィードバックを製品・サービスに反映させるプロセス。このサイクルを繰り返すことで、市場に受け入れられる製品・サービスを展開する。既存企業は自社事業の延長で改良することになりがちなので、新しい市場を創造する「顧客開発」プロセスを適用する。

 そのブランク氏が政府機関に対して教育を始めた。例えば、防衛や外交のスタッフに、リーンローンチパッドの方法論を使って、問題解決の探る指導をしている。

 私が注目するのは、彼が教育プログラムを提供しているNational Science Foundation(国立科学財団)との共同プロジェクトだ。研究機関に埋もれている技術をこの手法によって実用化するためのプラットフォームとそのプロセスの教育を行っている。NIH(国立衛生研究所)、DOE(エネルギー省)、HHS(保険福祉省)、NSA(国家安全保証局)などの米国の組織がこのプロジェクトに参加している。

 ブランク氏はリーンローンチパッドという手法を教えるだけでなく、それを実行するための人材育成もしている。先にあげた各省庁でのプログラムに加え、全米の53の大学でも彼の教育プログラムが提供されている。

 国の研究機関には、すごい技術がたくさんある。例えば、テロの攻撃に強いネットワークシステムとして開発されたインターネットは世界の通信インフラとなり、軍事目的の衛星によるGPS(全地球測位システム)が民間に開放された。秘匿性の高い無線LANは軍事用として研究されたが、現在はWiFiとして広く普及している。

 このように、研究機関に眠る技術が発掘されて、スタートアップが実用化にむけて応用するようになれば、イノベーションはさらに加速化するはずだ。冒頭にあげた山火事防止のような大きな社会問題に対して、公的な研究機関とスタートアップが協業・共創することにより解決の道を開くことを期待している。

(日経産業新聞 2017/10/24)

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