シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

変革し続けるVCの本当の世界を知ろう

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 アメリカの多くのベンチャー企業の趨勢から事業トレンドを探り、外部のベンチャー企業との協業を通じてオープンイノベーションを試みようという大企業の動きが活発化してきた。そのような状況で、アメリカのベンチャー・キャピタル(VC)に出資したい、という日本企業が増えている。大変いい考えだと思うが、成果を出すためには、アメリカのVCの状況をよく理解することが大事だ。

 まず、VCにはいろいろな種類があることを認識しよう。VCはベンチャー企業の成長過程の各段階でプレーヤーが異なり、それぞれの位置付けが異なる。創業のための準備をするアクセラレーターやインキュベーターに付随するVCは投資額が小さく(数千万円以下)、ファンド規模も小ぶりだ。一方、ベンチャー企業の急成長時の大きな資金需要に応えて出資する「レーターステージ」のVCは、投資額が大きく(数十億円以上)、ファンド規模も桁違いに大きい。(一千億円規模)。前者は新興のVCであり「マイクロファンド」とも言われる。例えば、500スタートアップは日本でもよく知られている。一方、後者はシリコンバレーの発展と共に成長してきた老舗VCで、セコイア・キャピタルやクライナー・パーキンス(KPCB)など日本でもよく知られている銘柄だ。例えば、セコイア・キャピタルの育てた会社は、EA(エレクトロニック・アーツ)、ヤフー、アップル、グーグルなどきら星のごとくだ。育てた投資先企業の現在の株式総額を合わせるとナスダック株式市場の22%になるという。

 このVC界に大きな異変が起こりつつある。VCの「群雄割拠」である。お気づきのように、上記の状況だと、ベンチャー企業が製品を開発したり製品を市場に投入する段階であるシードラウンドやAラウンド(初めての本格増資)に投資する間尺の合うVCがなくなってしまった。マイクロファンドでは本格資金調達段階での出資をする体力はない。一方、大型の伝統的なVCは、小さな規模の投資ではファンドを使い切れない。ということで、シードラウンドやAラウンドがすっぽり抜けてしまった。

 そこで登場したのが、「スーパー・エンジェル・ファンド」と言われる新しいファンドである。2010年くらいから自然発生的に始まった。大手VCがSNSやゲームなどの新市場が理解できないで投資に躊躇しているうちに、小額の投資を次々に行った小さなファンドが大きな投資リターンを得て、新たなVCがたくさんできた。その後スーパー・エンジェル・ファンドは増え続け、今では300社以上が活発に投資活動をしている。これらが、新世代の有力VCとしてベンチャー界の趨勢を握るような勢力となった。一説によると、シリコンバレーのシード投資案件の7割は、これらのスーパー・エンジェル・ファンドが牛耳っている、とも言われている。

 因みに、私が創業に関わったBullpen Capitalは、それらの「スーパー・エンジェル・ファンド」の投資案件が老舗の大型VCの間尺に合う大人のベンチャーに成長するまでの投資にフォーカスしたVCファンドだ。事業のスケールアップが開始する直前に出資するところにリスクがあるが、逆に多くの経験を積んだVCの腕の見せ所だ。「ポスト・シード」(Post seed)や「プリA」(Pre A)という新しいカテゴリーを創造したということで、Bullpen Capitalはシリコンバレーでも一目置かれる存在となった。

 さらに、最近ではこれらの新世代の有力VCからさらにスピンアウトして自分のミニチュア・ファンドを作る動きが出てきている。これらのファンドはかなり専門性を絞り、いい起業家を育て、大手のVCが投資できるくらいの段階まで成長させるのがビジネスモデルである。例えば、フィンテック(金融イノベーション分野)では、金融機関出身で規制に詳しく、業界の内側まで人脈のあるエグゼキュティブが小規模のファンドを立ち上げるような例が増えている。

 シリコンバレーを中心とした先進ベンチャー企業の動向を把握するには、何百社という新興VCコミュニティーとの交流が必要となってきている。日本企業は、シリコンバレーの内部コミュニティーに入ることがすこぶる苦手だ。現状では限定的で偏った情報しか入って来ない。これからは、さらに多くのVCと付き合う仕組みを考え、シリコンバレーの最先端VCとのネットワークを開拓することにチャレンジして欲しい。

(日経産業原稿 5/24/2016、一部加筆)

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