シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

シリコンバレー進出はなぜブームで終わる危うさがあるのか?

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 去年(2014年)から、「シリコンバレーにオフィスを開きたい」「駐在員を送りたいのだが」といった相談を日本企業から多く受けるようになった。イノベーションのメッカに目を向け、自社でのイノベーション活動や新規事業創造の参考にするのは大変いいことだ。しかし、シリコンバレーで20年以上活動してきた私には「また過去の失敗の繰り返しにならなければいいが・・・」と心配が先に立ってしまう。なぜなら、せっかく前向きな考えでシリコンバレーを利用しようと考え、優秀な人材を駐在員として投入するのに結果が出ないことが多かったからだ。このような事業探索のための駐在員は、会社の製品の販売活動をするわけでもなく、あるいは既存顧客のサポートをしているわけでもない。シリコンバレーのベンチャー情報や新規事業情報を収集し、多くの産業展示会やハイテク系のカンファレンスに出席する。また、他社の駐在員との交流を図るなど情報網の構築・維持に余念がない。頻繁に日本の本社に向けてレポートを送付し、夜は日本の本社との電話会議で費やされる。日本からの出張者のアテンドも大事な仕事だ。しかし、優秀な人材がこれだけ努力しているのに、あまり成功例を聞かないのはなぜだろうか?

 その理由には大きく3つある、と私は見ている。

[理由その1]そもそも「成功」の定義が明確でない。

 シリコンバレーで情報収集していれば、何か素晴らしい事業案件が部下から上がってくるのではないか、などという漠然とした目標では成功の出口が見えない。これでは駐在員のKPIが定まらない。日本から見てシリコンバレー事務所が機能していないと感じた時は、原因は日本側にあると思って間違いない。そもそもどのくらいの規模の事業をどのくらいの時間軸で立ち上げたいのか、既存事業の延長なのかあるいは飛び地の事業に飛び込むのか、あるいは日本の開発部門への示唆があればいいのか、既存事業部門への市場情報提供なのか。目的により、駐在員事務所の業務内容が変わるし、駐在員の人選も変わるはずだ。

 あるSI系の会社の駐在員事務所では、時流に乗った技術トレンドをレポートにして日本の既存顧客への情報提供を行ってきた。顧客には以前は好評だったようだが、そのような情報は最近では日本でも入手できるようになったので顧客価値がなくなってきた。かと言って、調査専門のスタッフには、自社の新規事業のネタをインキュベーションするノウハウはない。

 あるメーカーでは、新規事業探索の目的で研究所の技術者を派遣したが、技術的な興味から情報を集めるばかりで、結局は研究所からの依頼項目についての調査にとどまってしまった。

 別のメーカーでは、既存事業を破壊するような新しい技術トレンドを追い、果敢に新規事業の種を取り込もうとしているが、予算を多く持つ既存事業部門のサポートが得られず孤立している。駐在員の意識は高いのだが、行動を起こせないでいる。

[理由その2]「情報収集」の考え方が間違っている。

 シリコンバレーに進出する駐在事務所の多くは、目的を「情報収集」としている。メーカーがシリコンバレーのベンチャーキャピタルに出資する場合も、目的は多くの場合「情報取集」だという。しかし、情報をいくらたくさん集めても自分自身に何らかのイメージがないと情報から意味を読み取ることができない。新しい駅ができるのでこの土地が値上がりする、というような利権探索型の情報は手に入らない。一方、新事業の参考になる情報は、シリコンバレーにいなくてもメディアを通じてたくさん入手できる。シリコンバレーにいないと分からないのは、コンテクスト(文脈)だ。身の回りのあらゆる情報が肌で感じる空気となり、それがコンテクストを理解する土台となる。このコンテクストが理解できるようになると、特定の事業やベンチャーの情報を見た時に自分としての意味づけをすることができる。

 あるデジタルマーケティングの会社がシリコンバレーに事務所を構えた。すぐに新事業のネタが欲しいということだったが、私はベンチャー・スキャンを勧めた。多くのベンチャー企業を分析することによって、事業トレンドや事業モデルを理解できるからだ。しかし、最初は「ほとんどのベンチャー企業はニュースで読んだことがある」ということで分析に精を出さなかった。ところが、それぞれのベンチャー企業の裏にある事情や試行錯誤まで深堀りして議論を進めたところ、自分たちが各ベンチャー企業のコンテクストをいかに理解していなかったか、ということに気がついた。それからは、自らたくさんのベンチャー企業の分析を進めるようになり、しばらくすると新しく出現したベンチャー企業の位置付けもすぐに理解できるようになった。このような地道な作業を進めるうちに自分たちの求める事業分野が明確になり、逆に自らがそのような分野のベンチャー企業を探索するようになった。その後、ある先進ベンチャー企業と提携し、今では日本でその事業を展開している。

[理由その3]経営トップや経営幹部のコミットメントがない

 前述のように、成功の定義が不明確で目的がはっきりしないことや目的意識の希薄な情報収集の根本原因は、経営トップや経営幹部の意識にある。自ら勉強して基本知識を身につけ、シリコンバレーまで赴き現場の空気を吸い、部下任せにせず自らの頭で考えて仮説を提示する努力が必要だ。偉くなるとお神輿に乗せられてしまい、現場から離れてしまう経営トップがいるが、そのような経営者はシリコンバレーでは通用しない。これから新規事業を牽引するような経営トップ・経営幹部は、自らの足で動き、自らの頭で考えることが求められる。

 日本のある中堅のメーカーは現在の主力商品の陳腐化が来る前に次の製品群を創造したいと考えている。意識の高い中堅社員が出張ベースでシリコンバレーに長期滞在し、現在の製品を武器に多くのベンチャー企業に接触し、そこから次の事業のネタを探索している。最近では、毎月のように会長職のトップがシリコンバレーを訪問し、直接ベンチャー企業と接触して議論を重ねている。だいたいの方向性が見えてきたので、次は駐在員事務所を開設する段取りだ。はっきりとしたビジョンと経営トップのコミットメントが見えるので、シリコンバレーのコミュニティに深く入りそうな勢いがある。

 このように経営トップや経営幹部自らがシリコンバレーを頻繁に訪問する日本企業はまだ少ないが、だんだん増えてきた。未来を担うこれからの経営者に期待したい。

(日経産業新聞 4/21/2015)

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