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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

IoT で「ものづくり」復権

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 去年5月の週末にシリコンバレーの展示場で「メーカーズ・フェア」が開かれた。8箇所のステージ、200のスピーチ、1,000を超える展示ブースに、家族連れも含め13万人が入場したという。ものづくりの内容は、アートのような個人の趣味の世界からハードウェア回路、3Dプリンター、ロボットまで何でもあり、だ。CAD企業社長や「メイカーズ革命」の火付け役の人物、著名ベンチャーキャピタリストなどのスピーチもあり、アメリカ型ものづくりの動きが急速に盛り上がりつつあることを感じさせる。

 アメリカで注目されているこれからの「ものづくり」は、IT発想が主導するもので、「モノのインターネット」(Internet of Things: IoT)と呼ばれる。IoT はもともとモノとモノを直接インターネットでつなぐ技術的な分野を指したが、最近では「ITとハードウェアの融合による新しい製品パラダイム」にまで広く拡張したコンセプトになりつつある。シリコンバレーのVC界では「ハードウェアが次のソフトウェアだ」と言われている。世界を席巻したシリコンバレーのソフトウェア・IT系の企業・人材が、これからハードウェアも取り込んで事業領域を広げる、という。ソフトウェアの強みはその発想の自由さだ。まずは創造的な発想をして製品を作ってしまう。次々と改良していくことにより、最終製品を完成させていく。一方、ものづくりは、モノや材料を相手にしており、事前の実験や微妙な調整が必要だ。このように、モノは「ちゃんと動く」ことが最大の難関であるので、製品・事業モデルの自由な発想よりも実現性への心配が先に立つ。近年3Dプリンターやハードウェアのモジュール化など「ものづくり」が自動化・モジュール化しつつあり、IT発想の人にはとても分かり易くなってきた。

 逆にこれからのものづくりには、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルネットワークなどのITのトレンドを理解することが不可欠となる。従来のものづくり企業が付加価値の創出や新たな事業モデルの展開に苦戦する一方、アップルやグーグルなどの巨大先進企業は、ITを中心に様々なデバイスやハードウェアの分野に進出している。日本は今までソフトウェアをハードウェアのお飾りにしてきたので、ソフトウェア人材の厚みがない。日本は今までのものづくりだけに凝り固まるのではなく、ソフトウェア・IT中心の新しいものづくりの世界に目を向けるべきであろう。

 また、ものづくりに限らず、ヘルスケア、農業、エネルギーなどの分野でもITが中心になっており、これらもIoTの範疇に入るようになる。ITがすべての産業の変革を加速し、多様な価値を生み出す「IT前提社会」の時代を迎えているのである。

 シリコンバレーの私の友人の子供が通う幼稚園では、iPadはもちろんのこと、最近3Dプリンターやグーグルグラス(インターネットに繋がっためがね)を導入したそうだ。最先端のIoT分野のプログラミングのクラスも週3回行っている。IT企業出身の専任技術スタッフがプログラムを運営している。これらの予算は、他の授業の予算を削って捻出したそうだ。この分野への意気込みが伺い知れる。

 日本のものづくりの技術は依然世界トップレベルだと思うが、今までの世界に安住していると足下をすくわれる可能性がある。ITのメッカであるシリコンバレーがハードウェア・IoTに注目している今こそ、シリコンバレーを利用することを考えるべきだ。日本が得意とするものづくりのノウハウと、シリコンバレーが得意とする事業モデルの創造やIT開発を融合することにより、グローバルに勝負できるハードウェア事業を生み出すことができる。IoTというハードウェアの新しい潮流は日本にとってものづくりの復権のために大きなチャンスだ。

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