プロジェクトの「ふりかえり」 -- Retrospectives by Norm Kerth
Project Retrospectives、とはプロジェクトを全員でふりかえり、そこで何が起きていて、メンバーがどう感じたのか、をあぶりだすファシリテーション技術である。プロジェクトの途中で次のフェーズに有用なアウトプットを出すという使い方もあるし、プロジェクト終了時に、全員の健闘を称えあい、次のプロジェクトに生かす、という使い方もある。
私は「反省会」(ちょっとネガティブな感じ)と訳さずに、「ふりかえり」と訳すことにしている。
「ふりかえり」が、従来の「反省会」や「問題分析会議」と違うのは、それが全員参加で、かつ、参加者の「感情」部分の働きかえるものであり、建設的だ、ということ。誰かを非難したり、問題を抽出することが目的ではない。メンバーが、次のステージへ向かうための勇気を得ることが目的だ。だから、Norm が最初に書いているグランドルール、
「この会では、プロジェクトの全員が置かれた状況下でベストを尽くした、ということを疑ってはならない」
を設定し、その後で全員で回顧をする。
IT業界には、ヒドいプロジェクトが多い。時にはプロジェクトを終えて燃え尽きてしまう人も何人も見てきた。そういうことを発生させないためにも、「ふりかえり」では正直に、そこで起きていたことを全員で見つめる。プロジェクトで起こっていた「個々の物語」を集めて、「全員の物語」として共有する。そして、一種の"ヒーリング"をそこで得る。例えば、感謝の言葉を掛け合う、ということも重要だ。
本書を書いている Norman Kerth は、パターン界の重鎮であり、プロジェクトの「技術サイド」と「人間サイド」の相互作用についての考察が鋭い。Kent BeckがXPを編み出したとされる、クライスラーのC3プロジェクトの分析も行っている。
パターン⇒アジャイルの動きの文脈に、本書は位置づけられる。2004年の Agile Development Conference でも、この Retrospectives に関するワークショップが複数開催されていた。パターンプリンセスのあだ名をもつ、Linda Rising も、このRetrospectives に入れ込んでいる。
現代のITプロジェクトには、こういった「静脈活動」が必要だと強く思う。
Norman Kerth, "Project Retrospectives", 2001 Dorset House Publishing
Foreword by Gerald M. Weinberg