読点がいっぱい 【文章技術:句読点の打ち方】
編集作業をしていて意外に面倒なのが、読点の処理です。わたしたちは何気なく読点を打ちますが、なかには過剰に読点を打つ人がいます。そういうときは、どれを削除してよいのかじっくり読まなければならず、それが大量にあると結構な手間になります。
読点過剰症候群の例として、原誠(2006)では英語学の大家である安井稔の文章には著しく読点が多いと指摘し、次の文章を取り上げています。以下に引用します。[読点は「,」ではなく「、」に修正]
- 安井稔(2004)にはその p.179 に次のような文章がある。
- では、パラダイムによらない場合は、どうするか。この場合、自前で設定した目標を、自力で追求してゆくことになるが、その際、くれぐれも留意すべきは、独りよがりに陥らないということであろう。そのためには、様々なパラダイムの中で、達成されている知見に心を配り、目を見開いている必要がある。実際、そのような心構えが欠けているなら、現在、「だれもまだ試みたことのない方式で料理する」などということは、到底、望みえないことになるであろう。
指摘どおりに修正すると、次のようになります。
- ではパラダイムによらない場合はどうするか。この場合自前で設定した目標を自力で追求してゆくことになるが、その際くれぐれも留意すべきは、独りよがりに陥らないということであろう。そのためには様々なパラダイムの中で、達成されている知見に心を配り目を見開いている必要がある。実際そのような心構えが欠けているなら、現在「だれもまだ試みたことのない方式で料理する」などということは、到底望みえないことになるであろう。
かなり引き締まってよいのですが、ちょっと取りすぎな気もします。また、語句のつながりを分断している箇所がまだ残っているように思います。自分ならこうします。
第1文の「では」の後に読点入れる
第2文の「この場合」の後に読点入れる(あるいは「この場合は」とする)
第3文の「そのためには」の後に読点入れる。「パラダイムの中で」の後の読点を削除。「心を配り」の後に読点入れる
第4文の「到底」の前の読点を削除
結果、以下のようになります。
- では、パラダイムによらない場合はどうするか。この場合、自前で設定した目標を自力で追求してゆくことになるが、その際くれぐれも留意すべきは、独りよがりに陥らないということであろう。そのためには、様々なパラダイムの中で達成されている知見に心を配り、目を見開いている必要がある。実際そのような心構えが欠けているなら、現在「だれもまだ試みたことのない方式で料理する」などということは到底望みえないことになるであろう。
読点が多すぎる文の最大の問題点は、
読点が多すぎると、語句の修飾関係がわかりにくくなる
ことです。さらに読点が多すぎる文章は、
読点が多いというだけで読みづらい
ものになります。たとえば石黒圭・筒井千絵(2009)では、次のような例を挙げています。
(A)茶色い目のかわいいぬいぐるみをもらった。
これでは、「茶色い目」なのか「茶色いぬいぐるみ」なのか、あるいは「目がかわいい」のか「ぬいぐるみがかわいい」のかわからないとして、次のように読点を打てば意味が明確になるとしています。
(B)茶色い、目のかわいい、ぬいぐるみをもらった。
これで意味は明確になったけれども、短い間隔で読点が打たれているため、文の流れがそのたびに止まってしまってかえって読みにくくなり、読者に悪い印象を与えると指摘しています。そこで、次のように語順を入れ替えます。
(C)目のかわいい茶色いぬいぐるみをもらった。
このように語順を入れ替えるだけで、読点がなくても誤解されることはなくなります。
ここから言えるのは、
読点が多い文は、語順が悪い可能性がある
ということです。特に翻訳の場合、原文の語句や節の修飾関係をそのまま訳出すると不自然になることが多く、注意が必要です。
このような読点の打ち方をきちんと理屈で説明しているのが、本多勝一(2005)の『日本語の作文技術 新装版』で、どこに読点を打っていいのか迷ってしまう人にはお勧めです。
次回の「意味を変える読点」では、読点を打つ場所によって文意がどれほど変わるかを見ていきます。
【関連リンク】
読点を打つ日 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2011/11/post-9b7e.html
文の意味を変えてしまう読点 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2011/12/post-b4fc.html
句点の打ち方 基本編 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2012/03/post-397f.html
【参考文献】
原誠(2006)読点使用のルールに関する覚え書,『文体論研究』第52号(日本文体論学会)
安井稔(2004)『仕事場の英語学』開拓社
http://www.kaitakusha.co.jp/book/book.php?c=2118&l=ja
石黒圭・筒井千絵(2009)『留学生のためのここが大切 文章表現のルール』スリーエーネットワーク
http://www.amazon.co.jp/dp/4883195023/
版元のサイトで立ち読みができます。
http://www.3anet.co.jp/ja/1320/
本多勝一(2005)『日本語の作文技術 新装版』講談社
http://www.amazon.co.jp/dp/4062130947/
『日本語の作文技術 新装版』は、以下のサイトでも紹介されています。
- On the Backstage 翻訳者のための情報源
http://home.att.ne.jp/blue/onback/biblio/Japanese.html
もはや古典とも言うべき本が、新しい版で上梓されました。文字通り「技術」に関する部分を中心に再編集され、活字も文庫版より大きくなって、読みやすくなっています。「修飾の順序」「句読点のうちかた」など、わかりやすい文章を書く方法が指摘されています。