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文の意味を変えてしまう読点 【文章技術:句読点の打ち方】

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前回は 読点過剰症候群 の文について検討しましたが、今回は、読点を打つ位置によって文の意味が変わってしまう例を見ていきましょう。

最初は、「仮名や漢字がくっついて誤読する」ケースです(※1)。

(A1)ここで、はきものを脱いでください。
(A2)ここでは、きものを脱いでください。

(B1)その後妻に話しかけた。
(B2)その後、妻に話しかけた。

これは簡単ですね。例文(A)は笑い話になりそうですが、例文(B)はそうはいかないかもという感じです(「それは深読みしすぎ」とは、畏友 遠野君の弁)。
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次に古典的な例を挙げると、「美しい水車小屋の娘」というのがあります。すぐにわかるとおり、これは「美しい」が「水車小屋」にかかっているのか、「娘」にかかっているのかどうかわかりません。この例について、2011年の実用書 文章技術部門で一番売れた近藤勝重(2011)『書くことが思いつかない人のための文章教室』(193ページ)では、次のように述べています。

 美しいのが娘なら、「美しい、水車小屋の娘」と「美しい」のあとにテンを打つべきだということになるのですが、そのようにテン一つで意味が変わる文章ってどうなんだろう、いっそ誤解のないように短い文章に分けたらどうだろう、とかねてから思っています。「美しい、水車小屋の娘」なら「美しい娘がいる。毎日、彼女は水車小屋で働いている」でどうなんでしょうか。
 長い修飾句が目立つ文章も、同様に短く書き分けてほしいですね。

なるほど、2つの文に分けるというのも有効な方法です。ただ、上の例であれば前回のエントリー(「読点がいっぱい」)で説明したように、語順を入れ替えるだけですみそうです(2番目の文)。また、読点を入れたものを3番目に示します。次のようになります。

(1)美しい水車小屋の娘
(2)水車小屋の美しい娘
(3)美しい、水車小屋の娘

おそらく、語順を入れ替えた(2)は(3)よりもわかりやすいはずです。なぜ(2)のほうを好ましく感じるかと言えば、

 形容詞は磁石のようなもので、直後の言葉と結び付こうとする

からです。「美しい娘」はもっとも "磁力" の力が強い状態で、この状態では「美しい娘」がひとかたまりのもの(チャンク ※2)として認識されます。

(3)の場合は、「美しい」のあとに読点が打たれています。この読点は、「文をここでいったん区切るので、『美しい』がかかるのはもうちょっとあとの語句になりますよ」ということを意味しています。つまり、形容詞が直後の語句にかからないため、"磁力" の力が弱まってしまい、どの語句にかかるのかを読者は注意して読まなければなりません。もちろん、意味的には正しいから問題ないという言い方もできますが、少なくとも説明的文章においては、

 読み手に負荷をかける文は悪文

です(※3)。上の例は短い語句なので誤読することはありませんが、もっと長い修飾句だと読みづらいものになります。

今度は、もう少し長い文で、読点を打つ場所によって意味が変わる例を見ていきましょう。例文は佐久間保明(2006)の『文章の新教室』から取りました(112ページ、文番号は変更)。

(4)私は病後の静養中に栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を耽読した。
(5)私は、病後の静養中に栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を耽読した。
(6)私は病後の静養中に、栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を耽読した。
(7)私は、病後の静養中に、栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を耽読した。
(8)私は病後の静養中に、栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を、耽読した。
(9)私は、病後の静養中に栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を、耽読した。

(4)が元の文で、(5)〜(9)が読点を打った文となっています。これらの文について、著者は次のように説明しています。

「私は」「耽読した」ということでは、いずれも共通していますが、「病後の静養中に」というのが「私」と中島梓のどちらのことかというのは、読点のうち方次第となります。(5)と(7)ではどちらともとれますが、(6)と(8)では「私」の「病後の静養中」であり、(9)であれば中島梓となります。

このように、

 たったひとつの読点で文の意味が大きく変わってしまう

のです。さらに注意したいのは、なんとなく「主語のあとに読点を打つ」クセがついていると、意図せずして文意が変わってしまうことです(主語のあとの読点については、拙エントリーの「読点を打つ日」で NGルールとして挙げました)。(6)のつもりが、文意不明の(7)になってしまったりするわけです。

もうひとつ指摘しておきたいのは(6)と(8)の違いです。(6)と(8)は、「私」の「病後の静養中」であることは同じですが、読者に与える印象が少し異なります。(8)の2番目の読点は「栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を」の部分を強調しています。これは 強調の読点 とでも言うべきもので、"他ならぬ" 栗本薫のペンネームで書かれた中島梓のSF小説を読んだ、というふうに読めます。

この 強調の読点 のことを言語学の泰斗、小泉保は「語句の読点」と呼び、次のような例を挙げています(小泉保(1978):373ページ)。

 小学校の給食の時間によく見かける小さな事件であるが、子供同士が押し合って自分の手にもっている食器の中身をこぼしたりするとき、相手に向かって、

  「君が、押したから、こぼれたんだぞ。」

と非難する。ここで「君が」という部分を強調し、その背後に押したのはほかでもない君だという意味を含め、責任を追及する気持ちを表わしている。このようにある語句を他と区別して浮き彫りにする表現法を「表出」の強調という。そして表出された語句の後ろに読点を付して、その機能を示すことができる。

強調の読点 の例をもうひとつ挙げておきましょう。次の文を見てください。

(10)私は彼に招待された。
(11)私は、彼に招待された。

(10)のほうは、単に「私は彼に招待された」という "事実" を述べています。
一方、(11)のほうは、(10)の事実に加えて、「(あるパーティーか何かで)ほかの人は誰に招待された知らないけれど、"私は" 彼に招待された」と読み取れます。読点を打つことによって、自分のことを強調しているわけです。別の表現をすると、「私」をほかのものと区別し、自分に焦点を当てた言い方をしています(※4)。

これらの例からもわかるように、読点にはいろいろな役割があります。役割を持たせすぎだとは思うのですが致し方ありません。

次回は句点の打ち方について見ていき、「句読点の打ち方」はひと区切りつけたいと思います。


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※1 例文(A)は小川悟(2002)、例文(B)は武部良明・秋末一郎(1979)「文章表現べからず集」、「國文學」特集:文章表現公式帖、6月臨時増刊号〔第24巻8号臨時増刊号〕:191ページ
※2 ここで「チャンク」は、「意味的なかたまり(断片)」という意味で使っています。田中茂範(2003)を参照。
※3 小説であれば、あえて読みづらい文章を書くというテクニックもありますが、それはまた別の話です。
※4 主題を表すとりたて助詞の「は」に、強調の読点が加わった形となっています。


【関連リンク】
読点を打つ日 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
 http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2011/11/post-9b7e.html
読点がいっぱい 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
 http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2011/12/post-c109.html
句点の打ち方 基本編 【文章技術:句読点の打ち方】|エディテック
 http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2012/03/post-397f.html

【参考文献】
小川 悟(2002)『これは便利! 正しい文書がすぐ書ける本』日本経済新聞社:133ページ 
 ▼会社の新人さんに最初に読ませたい一冊。社内研修にも最適です。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4532310032/
近藤勝重(2011)『書くことが思いつかない人のための文章教室』幻冬舎新書 
 ▼情景・心情の描き方など、とても参考になります。
 ただし、本書の内容は「印象に残るエッセイの書き方」というものなので、
 レポート・論文作法を学びたければ別の本がよいでしょう。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4344982339/
田中茂範・河原清志・佐藤芳明(2003)『チャンク英文法』コスモピア
 http://www.amazon.co.jp/dp/4902091062/
佐久間保明(2006)『文章の新教室』武蔵野美術大学出版局
 ▼「ムサビ通信教育課程の学生のために書き下ろされたレポート指南書。」(武蔵野美術大学出版局HP
 とのことで、スタンダードな構成ながら味わいのある文章で綴られています。
 文章作法に関する本を読むのであれば、購入候補の一冊としてお勧めします。
 http://www.amazon.co.jp/dp/4901631691/
小泉保(1978)『日本語の正書法』大修館書店
 http://www.amazon.co.jp/dp/4469220191


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