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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

苦戦している実用書の勝機は定期定額(サブスクリプション)にあり

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出版全体が右肩下がりを続けている中でとくにもがき苦しんでいるのが実用書だ。インターネットの影響をもろに受けている。でもひょっとすると逆にやり方しだいではいちばん電子コンテンツで成功する可能性のある分野であることがわかる。

たんに紙を電子にして同じ値段で売っているような現在のやりかたではだめで、一捻りがひつようだ。電子コンテンツというと紙ではできないことをやろうとして、リンクや動画を埋め込んだり、アニメーションを作ったり必要以上のコストをかけてしまい、結局売れずに採算倒れになるケースをこれまでいくつも見てきた。一捻りとはそういうものではなくユーザーへの提供の方法を変えてみるということだとおもう。

電子コンテンツを単品で選んで都度決済するというのはユーザーにとって敷居がたかい。どうしても必要でここで買う以外に入手方法がないといった場合か、AmazonやAppleまたはGoogleのようなすでに広く認知され既存の登録ユーザーがいる場合にかぎられるのではないだろうか?

インターネットの普及でいちばん影響を受けた出版物は実用書だと言われる。たいていの情報はネットで手に入るしネット情報の方が新鮮なのでよほどのネットリテラシーのない人以外は書籍を買わなくなってしまったということだ。むかしある情報商材系の方から聞いた話だが、その年に一番売れた電子書籍は「金魚の飼い方」だったそうだ。これなど実用書の典型かもしれない。昔は街の本屋さんで実用書のコーナーにいくとこのような本がかならずおいてあった。趣味、音楽、旅行、自己啓発といったものだ。「金魚の飼い方」は普通の金魚ではなくコンテストなどで賞をとるためのテクニックを書いたものでそれをめざしている人にとっては多少高くても欲しいコンテンツだそうだ。こうした本を求めているのは本当に限られた人なのでその人達に訴求するためには街の本屋さんに並べるというのはいかにも非効率だということはすぐにわかる。インターネットで検索されることが大前提でそうなったら電子書籍で売ることがいちばん適している。Webで情報を見せることもあり得るがそれでは課金することが難しい。その情報を求めている人に情報のありかを知らせてすぐに読むことのできる電子書籍の形で売る。これは非常に理にかなったビジネスモデルだ。

実用書の中でも旅行はいちばん大きな市場だ。旅行ガイドブックは国内外の旅行情報を定期的に改定しながらつねに一定の販売を維持してきた。ただ、これもインターネットの影響をもろに受けている。ネット上にはあらゆる旅行情報があふれている。しかも書籍の場合は人気の場所でも年に一回改定するのが精一杯なのでつねに情報は古くなってしまう。限られた日数の旅行では訪れるところはそんなに多くはない。にもかかわらず旅行ガイドブックにはどうしても網羅的におおくの情報が載せられているのでどうしても分厚くかつ価格も高くなってしまう。ハワイのホノルル周辺にしか行かないのにガイドにはそれ以外の島や地域の情報がのっている。もちろん自分の行かないところの情報も見ることが楽しみの一部だがそのために割高な書籍を買うのには抵抗がある。また旅行中に持ち歩くには分厚いガイドブックは適さない。そこでたいていの場合買ったガイドブックを破いて必要なところだけを携帯することになる。これはユーザー側によるマイクロコンテンツ化だ。

たとえば旅行系のコンテンツをマイクロコンテンツ化してしかもサブスクリプションで提供したらどうだろうか。

夏休みにハワイに友達4人で行くことになった。これまでだと共同で1冊ガイドブックを買ってみんなで行くところを検討してその部分を破って旅行に行く。ムックだと1,000円が出版社にとっての売上だ。(もちろん出版社の手取りはこの中の一部)。このコンテンツをマイクロコンテンツ化してサブスクリプションで提供したらどうだろうか?ハワイ旅行の前後で3ヶ月程度の期間を設定して課金をする。その間サイト上のハワイに関する情報を自由に読むことができるしかも情報は紙よりも高頻度で更新されている。旅行中もスマホで必要な情報をいつでも手にすることができる。旅行に行く4人が同じように見られるようになる。買うのは代表ひとりで4人のメルアドを登録することで全員が情報を見ることができる。価格はおなじ1,000円でもいい。出版社の手取りは当然紙の場合の何倍かになる。価格の設定はたとえばこの例だと一つの旅行先に対して3ヶ月で一人あたり250円。

これはひとつの可能性にすぎないが、ようするにインターネットに侵食され死に絶えようとしているコンテンツとは逆に言えばインターネットで生き残れる可能性のあるコンテンツだと言えないだろうか?ただ単に紙媒体を電子化したものを紙と同じ価格で売るのではパラダイムは変わらない。通常のWebではできない形でコンテンツを提供することで課金もできるしユーザーの満足度もあがる。これは他の実用書のすべてに共通する手法だと思う。

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