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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

すべてはiPodから始まった

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2001年にアップルがiPodを発売した時には恐らくSteve Jobsも含めて今日のように音楽業界が変わるとは誰も予想しなかったであろう。アップルのiPodとiTunesはそれくらいのインパクトがあった。この延長線上に書籍、雑誌、新聞といった古いビジネスモデルが成立しなくなったメディアが見え隠れしていたのは当然のことだ。音楽コンテンツを制覇したアップルが次にこれらのコンテンツを視野に入れていない方がおかしい。今回アマゾンのKindle DXが注目されるのも同時にアップルがMacBookとiPhoneの中間に位置する新製品を発表するであろうという観測がかなりの真実味を帯びてきているからだ。MacBookとiPhoneの中間というよりは、ビジネスモデルを論じる際にはiPodの書籍版と言った方がより分かりやすいかも知れない。書籍版とは言っても機能としてはiPodの上位になるだろうからiPodBookとでも呼ぶのが一番かも知れない。実際巷では誰かがiPadという絶妙なネーミングをすでにしている。音楽、写真、ビデオ、雑誌、新聞、書籍といったメディアを網羅するメディアプレイヤーがもう眼の前に迫っている。

今回アマゾンのKindle DXに対してコンテンツの供給を表明している新聞社や教科書会社にしても、別にアマゾンと独占契約を結んでいる訳ではないので、アップルから新端末が出た時点で両方をサポートする可能性が高い。その時強力なアップルのコンテンツのサプライチェーンにアマゾンがどこまで対抗できるのか?非常に興味があるところだ。想像するにSteve Jobsは病院のベッドの中ですでにKindle DXの情報を見て悪口雑言を吐いているのだろう。アマゾンのJeff Bezosもアップルを完全にライバルと見ているだろうから一般情報以上のものを提供しているとは思えない。

アップルがこれまで築いて来た音楽レーベルとの関係と同じようなパートナーシップを出版社や新聞社と構築することができるのか?またその時のアップルの徴収するマージンはどうなるのか?App Storeのように30%という高いマージンを確保できるのか?iTunesのように一曲$0.10くらいの低いレベル(10%位)にするのか?一方アマゾンはKindle用のコンテンツ販売からどれくらいのマージンを稼いでいるのだろうか?ある情報では同じコンテンツがある場合Kindleコンテンツとして買う人が30%以上いるという。俄には信じがたいが本当だとするとかなり衝撃的な数字だ。紙の本と電子コンテンツを両方買う人もいるだろうが、紙を買わずに電子コンテンツのみ買う人が増えてくるとアマゾンとしては売り上げも利益も減るということになる。

また、これらの動きに出版社や新聞社がどのような動きにでるのかもまだ予断を許さない。KindleやiTunesといった新しい流通の仕組みは、古い体質を引きずっている出版社や新聞社にとって簡単に処理しきれるものではない。単に紙が電子ディスプレイに替わったということではない。印刷、製本、流通といった関連産業を巻き込んだ巨大な潮流の変化が起きようとしている。これはテレビ番組がインターネットで配信されるといった変化よりも社会に与える影響は大きいかも知れない。動画コンテンツの場合は単に放送業界と通信業界の縄張り争いで最終的には適当な線引きが行われて落ち着くだろうが、紙から電子への変化が本格的になった場合は周辺産業への影響も含めて計りしれない。実際にはそんなに急激な変化にはならないだろうが、場合によっては予想以上の変化として押し寄せて来るかも知れない。特に新聞、雑誌はその波をまともに食らうことになる。

次回、「デジタルコンテンツの先輩、音楽コンテンツを知って、出版コンテンツの将来を探る」につづく。

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