精神障がい者の居場所をつくるNPO法人「多摩草むらの会」
ブランディングといったブログテーマとは、少し異なるが、是非、紹介したいNPO法人がある。
世相を反映してか精神障がい者数は年々多くなっているという。一方、一度精神障害を発症して、再び仕事に戻ろうとしても、なかなか戻れない実態がある。
上記の就労件数と新規申込者数の推移では、年々精神障がい者数は増え、就職したくてもできない方の数が多くなっている傾向にある。
そうした中、平成7年 精神障がい者の居場所と雇用促進のために、設立されたNPO法人が「多摩草むらの会」である。日本のNPO法設立の立役者であり、日本NPO
中井久夫氏の文章に出てくる野兎を精神障がい者にたとえて、気の弱い野兎が「草むらがたくさんあったら人参畑に人参をとりに行けるのにな」という思いから、「草むらの会」といった名付けたという。
<参考>
精神障がい者に限らず、障がい者の方々の雇用状況は厳しい。知的障がい者のケースであるが、大阪障がい者センターの実態調査では、障がい者本人の平均月収は9万7609円で一般単身者の3分の1、内訳は9割が年金収入、就労による賃金・工賃は収入源~中略~賃金・工賃の収入は、全国平均も16,389 円(平成20 年度厚生労働省調べ)と大変低い現状にある。 2009年実施 大阪を中心とした「知的障がい者の暮らし実態調査」より
そうした実態の中、多摩草むらの会は、心の病を持つ人が地域で安心して自立生活をしていけるよう支援をはじめている。平成2年にできた都立多摩総合精神保健福祉センターに通所していた精神障がい者の方が、センターのデイケアーの時間が終わる15時以降、行き場が無かったという。そのため、最初は、風間代表の家に集まっていたそうだ。そして、徐々に人数も増えたため、1Kを借りて立ち寄れるようにしたという。当時、1Kの狭い部屋に20名~30名集まっていたそうだ。
風間代表は、集まった当事者と親から話を聞いた。親が死んだらどうしたらいいの?身分証明書がないのでどうすればいいの?・・様々な不安があったいう。
前述のデータでも精神障がい者の再就職は難しくなっているが、当時にしても、一端発病して会社を辞めた人が、再び勤めるところが無かったという。そして、障がい者として働いたとしても、当時は、障害者が1時間働いて40円だったそうだ。そこで、「まずは、1時間働いたら缶ジュース1本。120円もらえること」を最初に目標にしたという。
活動が本格的になったのは、元々父親が無かった子のお母さんの亡くなってしまったことが、切っ掛けである。両親を亡くした精神障がいを持った子をどうしようか?となって、当時、世田谷の家族会に電話をした際、「自分のところは、一杯だから、今は、入れない。あなたのところで、グループホームを作ればいいのではないか?」と言われたいう。
そこで、グループホームを作るために多摩市に交渉に行ったが、当時東京都では5ヵ所しかなく、既に多摩地区に1箇所あったので難しい状況であった。しかし、風間代表は、諦めず、市の部長課長のところへ夜打ち朝駆けで頼み込みに行き、6つ目の施設の認可を受けることに成功する。グループホーム多摩草むらの誕生である。
医療を継続している方で、家族から離れて地域で自立して生活していきたい、一人で生活できるか心配...そんな方に対し、個室を提供して生活するための様々な支援を行っており、現在では、24時間ケア体制で4ヶ所になり200人近い方が利用するようになっている。しかし、当初は、資金が無かったから、水餃子をお父さんお母さんが材料を持ち寄って作ったり、バザーを開くなどして、何とかお金を捻出したとのことだ。
グループホームが黒字を出していたので、市から3障害+健常の人で運営する店をやらないかといった話があった。家賃 300万円/年 ところが、市からは300万円の家賃しか出ない。改築費に800万掛かったが、自分達で220万を出し、その他は、バザーなどで補った。人件費も出せないので、開店準備の朝6時から閉店後の片づけをする夜12時まで、家族で交代して働いたという。
精神障がい者は、薬の影響で肝臓が悪い人が多く、太ってしまう傾向もある。そこで、健康にいい店にしようと、寒天を中心に取り扱おうと考えて、有名な伊那食品工業を訪ねたという。塚越社長(当時)が対応してされ、「人件費も出せないところからお金を取るわけにはいかない!材料費は内が提供するから」と無料で材料を出していただいたそうだ。そんな経緯から出店したのが、寒天茶房「遊夢」である。
伊那食品工業は、以前、本ブログでも取り上げさせてただいた。こうしたことを知ると、「いい会社をつくりましょう」といった理念の実践を改めて感じる。
広告を打つお金もなかったので、毎月トークサロンを行い、有名な方にゲストとして招いて、メディアに取り上げてもらえるような取り組みを約4年間やってきたという。そうした苦労が報われて、TVアド街ック天国などでも、取り上げられるようになった。しかし、障がい者を前面に出すのではなく、本当にお客様に喜んでもらうといったことを大切にしている。
さらに、長野のグリーンファームの社長から、オリビア、あずき等、いろいろな野菜の作り方を習い、2007年無農薬野菜の栽培を初めている。農園「夢畑」である。
ここで栽培する野菜、花の全てが売り物である。農園の責任者である風間所長は、決して、障がい者だからといって、特別扱いしない。健常人と分け隔たりなく厳しく指導しているのは、お客様が喜んで対価を得る喜びを感じてもらいたい!からだという。そして、収穫された有機野菜は、遊夢や道の駅で健常者が作ったものを同様に、販売している。
また、コンピュータを自由に利用できるサロンも設けている。パソコンサロン「夢像」だ。
調べ物や趣味のため、誰かと一緒にのんびりおしゃべり、ゲームやインターネットの利用のためでもOKである。障がいを持った仲間、困ったことを相談できるスタッフ、コンピュータの勉強をサポートするインストラクター設置している。ここでも、再就職できるようにスキルを磨く。中には、パソコンが出来なかった方が、スキルを向上することで、インストラクターになって働いているケースもある。
NPO多摩草むらの会の取組みから学ぶことは、
・障がい者といったことを全面に出さないで、健常者が行っている事業と競争している。
・お客様に認められお金をいただく喜びを障がい者に味わってもらうために、一人一人に時には 厳しく関わり、自立させようと真剣に取り組んでいる。
・就労支援だけでなく、自分達のNPO法人の中で、雇用機会である職員になる道を作り、月額 約10数万円の給料を払っている。
・いろいろな職場を設けることにより、障がい者各々に合った職を作ろうと努力している。
・行政の縦割りによる給付金よりも、障がい者を最優先し、地域を越えて受け入れている。補助金は最小限で運営できるように、事業そのもので運営費をまかなっている。
等々 これからの障がい者就労支援と雇用を考える上で、勉強になることが多々ある。
最後に、風間美代子代表に「何故、ここまで、頑張ってやるのか?」とお聞ききすると、次のようなお話をいただいた。
「 草むらの会で大切に預かった子を亡くしているから・・・ 」
精神障がい者の方は、決して知能が低いのではなく、自分が親に迷惑を掛けていることを自覚しているという。「生まれてこなければよかった。 自分が生きていると、これからもお父さんやお母さんに迷惑を掛ける。 」といった気持ちが、どこかにあることが多いそうだ。
そうした背景の中、草むらの会で亡くなっていった子と親に申し訳ないといった気持ちから、行動しないではいられないという。365日24時間の監視を行っていても、悔しいが自殺といった悲しいことが起きてしまうこともあるという。
ファーストリテイリング(ユニクロ)のように、全店に障がい者を配置し、8%を超える雇用率を達成している企業がある一方で、日本を代表する有名企業であり多額の利益を出しながらも、CSRに取り組んでいると言いながら、法律である障がい者雇用促進法の1.8%を守らない企業があるのは残念だ。これからの優良企業としてリスペクト(尊敬)されるのは、障がい者雇用など社会的な活動にも熱心に取り組んでいる企業だと思う。
そうした中で、上図の厚生労働省の調査にもあるように、精神障がい者は、障がい者(身体、知的、精神)の中でも、最も雇用されることが難しいと言われており雇用率も低い。(実際は、誤解されている面もあると思われるが・・)
その精神障がい者の就労支援に取り組むだけでなく、実際の雇用創出をしている多摩NPO法人「草むらの会」に、心からエールを送りたい。
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