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「3Dプリンター銃」は規制できるか

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海外では既に事例があったのですが、日本でもついに「3Dプリンターで殺傷能力のある銃を製造、所持していたとして逮捕される」という事件が起きました:

3Dプリンターで銃自作か 大学職員を所持容疑で逮捕(朝日新聞)

 3D(3次元)プリンターで自作した銃2丁を所持していたとして、神奈川、兵庫の両県警は8日、湘南工科大職員の居村(いむら)佳知容疑者(27)=川崎市高津区=を銃刀法違反の疑いで逮捕し、発表した。居村容疑者は「警察が銃と認めたのであれば仕方がない」などと話し、容疑を認めているという。

 神奈川県警の説明では、3Dプリンター製の銃の摘発は全国で初めて。

報道されている銃の形状から、例のDefense Distributedが開発した「リベレーター(Liberator)」かなと考えていたのですが、やはりそうだったようです:

容疑者、米ネット情報を利用 3Dプリンターで銃自作(朝日新聞)

 県警の説明では、居村容疑者の逮捕容疑は4月12日、殺傷能力のあるプラスチック製の銃2丁を自宅で所持していたというもの。居村容疑者が試作の基にした設計図は、米国内の団体が3Dプリンターを使って銃を製造する方法としてネット上で公開したものだった。

(追記)Defense Distributedのコーディ・ウィルソンも今回の件に対して、声明を発表したそうです:

3Dプリンター銃「評価を」 図面公開の米国人が声明(朝日新聞)

3D(3次元)プリンターで製造した銃を所持していた疑いで、大学職員の居村佳知容疑者(27)が逮捕された事件で、銃の設計図をインターネットで公開した米国のコーディ・ウィルソンさん(26)は8日、「彼は作業を公の場で、疑いや恐れをなしに行ってきた。創造的で大胆な素質ゆえに迫害され、災難にさらされるのは、従順で凡庸な社会の罪深さを示すものだ」との声明を発表した。

Defense Distributedは自らが開発している銃を「ウィキウェポン」と呼んでいるのですが、まさにウィキやオープンソース・プロジェクトのように、ネット上の人々が参加する形でオリジナルの銃データの改良が行われるという状況が起きています。あえてリンクしませんが、オリジナルでは銃弾1発しか装填できなかったリベレーターを改造し、複数の銃弾を撃てるようにしたバージョンなどもネット上で見受けられます。

こうした状況に対して、ある意味で仕方のないことですが、「3Dプリンターに対して何らかの規制をかけるべきでは」という声が起きています。その一方で、「密造銃など3Dプリンターがなくても作れる」「銃はできても銃弾は作れないのだからリスクが高まったとはいえない」として、大騒ぎする風潮を戒める声も見受けられます。

個人的な意見としては、昨日いくつかのマスメディア上でもコメントさせて頂いたのですが、後者の考え方に近いです。SF映画か何かのように、ボタンを押すだけで銃と銃弾を生み出す機械が普及したわけではなく、いきなり明日から米国のような銃社会がやってくるという可能性は小さいでしょう。また現在でも日本では個人が銃を所有することは禁じられており(猟銃などの例外を除く)、実際に今回の事件では、既存の法律を根拠として逮捕が行われているわけです。「個人が銃を製造したり所有したりしてはいけない、ただし3Dプリンターでの製造を除く」などという条文にはなっていないわけですから、現行の法律でもある程度まで対応可能だと思います。

ただ現状の法律は、あくまで過去のテクノロジー環境を基にして考えられたものです。例えば猟銃を入手する場合でも、所持許可を取得していなければならず、厳重な保管が求められます。こうした管理制度があることで、何らかの事件が起きた場合でもある程度のトラッキングが可能になるわけですね。しかし銃が対面で取引されるのではなく、個人の自宅内にある3Dプリンターで銃が製造できるとなれば、同様のトラッキングは難しくなるでしょう。その意味で、新たな法律を作らないまでも、その内容や仕組みが古くなっていないか、現状に即していなければどのように修正していくかという議論が必要になると思います。

それでは「3Dプリンター銃」がなるべく製造されないようにするとして、どのような規制が考えられるのでしょうか。

手っ取り早く「3Dプリンターの所持を許認可制にしては」的な意見が出ていますが、これは難しいと思います。3Dプリンターが今後一般的なプリンターなみに身近な機械になるであろう(あるいは身近な機械になることを促進すべきであろう)ことを考えると、所持規制を行うというのは現実的ではありません。偽札が印刷できるかもしれないからという理由で、個人用プリンターの販売が許認可制になっていないのと同じです。また3Dプリンターの個人所有をしなくても、データさえあれば3D出力してくれる(リアル店舗やオンライン上で)サービスもあり、この場合はサービスプロバイダーにユーザー確認をいちいち求めるのか?という話になります(明らかに殺傷能力のある銃を出力しようとしている、などという場合に限定すれば可能かもしれませんが)。

個人的には、それよりも「データの流通を規制すべきでは」というアプローチの方が本格化するのではと考えています。前述の通り、今回の事件の容疑者も、もともとはデータをネットから入手しているわけです。さらにデータを自由に共有可能な状態に置いておくと、オープンソースよろしく「3Dプリンター銃」の性能があっという間に向上してしまう恐れが考えられます。ならば3Dプリンター用データの共有サイト(Thingiverseのようにいくつか著名なサイトが登場しています)に対し、危険なデータがないかチェックして、確認されれば削除するような対応が求められるようになるのではないでしょうか。既にこうしたサイトでは、自主的に規制する動きが見られますが、善意に頼るのではなくルール化すべきというわけです。

ただいわゆる「違法コンテンツ」をめぐるイタチごっこを見れば分かるように、このアプローチも実効性に難があります。そもそも海外サイトにデータをアップされれば、そのサイト運営者に対して国内のルールを強制させることはできません。実際にDefense Distributedでは、リベレーターのデータがデータ共有サイト上で(運営者の自主的な判断によって)削除された際、自ら新たな共有サイトを立ち上げ、そこでは一切の検閲を行わないと宣言するという行動に出ています。また3Dデータ用の検索エンジンを作ることもほのめかしており、こうなるといくら少数の大手サイトをルールに従わせることができたとしても、何の意味がなくなってしまうでしょう。

ではどうすべきか。セキュリティの専門家であるブルース・シュナイアーは、著書『信頼と裏切りの社会』の中で、社会における信頼感を維持する方法として4つの手段を挙げています。以下、原著"Liars and Outliers"をyomoyomoさんが紹介されていた時の記事からの引用です:

ブルース・シュナイアー先生の新刊『Liars & Outliers』が発売されていた(YAMADAS更新履歴)

既に書評が出ているが、社会において信頼を生み出し維持する四種類の「社会的圧力」の話が興味深い。

  1. 道徳的圧力:適切な社会的マナーに決定的な影響力を与える昔からある価値観や規範
  2. 評判による圧力:我々の行動を抑制する仲間からの圧力
  3. 制度的圧力:我々が属する各種団体において妥当な行動を誘導する組織の規則、行動基準、規範
  4. セキュリティシステム:協調を促し、裏切りを防止し、信頼を促し、順守を強いるためのメカニズム

昨夜、荻上チキさんのSession-22において「制定に時間がかかり、テクノロジーの進化の後追いしかできない法律だけで規制しようとするのではなく、包括的な対応をすべき」と最後にコメントさせていただいたのは、この話が頭にあったためです。例えば日本は米国のような銃社会ではないわけですが、これは制度的に銃が入手しにくいという理由だけでなく、「銃を簡単に入手できるような状況は良くない」と考える日本人が多いことも一因となっているでしょう。つまり「道徳的圧力」と「制度的圧力」が組み合わさって銃のない社会が維持されているわけです。遠回りな方法かもしれませんが、例えば3Dプリンターについて小学校などで教え、そのメリットとデメリットについて考えさせるといったアプローチも検討されるべきでしょう。

またシュナイアーの言うところの「セキュリティシステム」、つまりテクノロジーによるリスクの排除も検討されるべきであると思います。

例えば3Dプリンター用データに対して、DRMのような仕組みを構築すべきという動きがあります。これは3Dデータでビジネスを行うための前提条件として考えられているものですが(販売した3Dデータが自由にコピー可能なようでは、「玩具の3Dデータを販売するのであとは自由に出力して」というビジネスができないわけですね)、例えば銃の形状をした3Dデータに対し、「このデータはプラスチックで出力してもいいけど、金属を素材として使用してはダメ」といったような規制をかけるのにも使えると考えられています。こうしたDRMの導入を関係団体に求めたり、ある程度の強制力のあるルールとして導入したりといったアプローチが考えられるでしょう。

また3Dデータそのものをチェックして、銃として使われる可能性のあるパーツが含まれている場合、出力できないようにするという技術も考えられています:

Danish Company Creates Software That Will Stop You From Printing A Gun (TechCrunch)

さらにもう1つだけ挙げておくと、3Dプリンターで出力したものの表面に僅かな印を残して、どの端末で出力したのかを確認できるようにするという技術も検討されています(リサーチ不足で恐縮ですが、これがどこまで実現されているのか不明です)。いわば「指紋」をつけるわけですね。こうした技術が実用化されれば、仮に3Dプリンター銃が出力されて事件に使われたとしても「誰がそれを製造したのか」がある程度追えるようになりますから、一種の抑止力として機能することが考えられると思います。

ということで、ざっと書いてしまったので抜け落ちや事実誤認もあるかもしれません。また3Dプリンターで出力されて危険なものは、銃のほかにも様々な物品が存在します(コンビニATMのカード差し込み口にスキミング装置が取り付けられるという事件が問題になっていますが、スキミング装置を隠すパーツを3Dプリンターで製造しているという話もあります)。なのでこれが議論の全てであるということは決してないのですが、取り急ぎ個人的な意見としては以上の通りです。当然ながら社会的なリスクを減らす一方で、3Dプリンターの有効活用や普及が今後も促進されていくことを願います。

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