#CES レノボCMOが考えるUltrabookの可能性
レノボさんがブロガー向けイベントを開催するとのことで、先週の日曜日からラスベガスに滞在しています。このタイミングでラスベガスという場所が選ばれた理由は、もちろんCESが行われるため。開催は今日1月10日からですが、前哨戦となるプレス向けイベントがあちこちで開かれ、街にはCES参加者およびメディア関係者と思われる人々が溢れ始めました。
昨日はそのレノボさんによるプレスカンファレンスが開催され、Android4.0とQualcommのデュアルコアプロセッサを搭載した55インチスマートテレビ「K91」や、着脱可能なキーボードが付いたタブレット「IdeaTab S2110」、画面をひっくり返してタブレットとして使用可能なUltrabook「IdeaPad YOGA」などといった面白い製品が多数発表されていました。
こちらは42インチのスマートテレビ「K81」。会場ではリモコンを通じて音声操作する、タブレットをリモコン代わりにして操作するなどといったデモも。
で、今回は特別に、レノボのCMOを務められているDavid Romanさんとお話しすることができました。DavidさんはAppleやNVIDIA、HPとった企業でマーケティングを担当されてきた方で、2010年にレノボへと移籍して来られました。その際にはこんな報道もなされています:
■ David Roman 氏は Lenovo を Apple のライバルにできるか? (インターネットコム)
Lenovo は、興味深くはあるものの中国国外ではたいてい失敗してきた中国産の自社製品で悪戦苦闘してきた。同社の ThinkPad ブランドはかつて市場で最も品質が高いとされたが、IBM と切り離されたことでそれも低下してしまった。
だが2009年になって、消費者製品や巧妙に狙った業務製品が年末に向けて見事な成長を助けると劇的な変化が現れた。しかし、Apple が享受したような成功に挑戦する位置にはほど遠かった。彼らは製品で対抗できるところは示したものの、イメージや需要喚起の点において Apple と競合するようなマーケティングの才はなかった。(中略)
David Roman 氏が持ち込むのは、マーケティングの専門知識と創造性の組み合わせであり、低予算の利用に関しては Apple のそれを上回る。それが同氏一人で実行できないこと、そしてその成功が新会社から得られるサポートに大きく依存することは確かだが、われわれはここ10年で初めて、本当に Apple と直接対決し、その上で勝利できる可能性を秘めた会社の再生を目の当たりにしているのかもしれない。
Davidさんが話されていたのもまさにこの部分で、レノボは近年プロダクトレベルでの成功を収めつつも、「レノボ」というブランドを育ててコンシューマ市場でプレゼンスを確立する必要があり、そしてコンシューマ市場と(同社がThinkPadブランドでシェアを維持してきた)エンタープライズ市場をバランスさせることが目標であると語っていました。
ちなみにブロガーを招くというのもこうしたブランド育成の一環で、マス広告など既存の「コントロールされたコミュニケーション」の効果が薄れてきている状況では、ソーシャルメディアを通じた「オープンなアプローチ」も力を入れる必要があると認識しているそうです。さらに昨年末に発表された「YouTubeスペースラボ」への参加も、このキャンペーン単体で短期的なリターンを求めるつもりはなく、長期的に消費者(特に若い人々)がレノボブランドを認知するきっかけになってくれればとのことでした:
■ YouTube SpaceLab: Launched with Lenovo
で、あくまでもDavidさん個人の感想なのですが、今回出品されている製品の中ではUltrabook関連がお気に入りとのこと。もちろんPRも兼ねての発言でしょうが、「この快適さを知ると手放せなくなる」そうです。UltrabookとはIntelが提唱している新カテゴリーで、一般的には薄型ノートPCの新カテゴリーを目指すものとして認識されていますね:
■ Ultrabook™ : 薄型で洗練されたデザインに、極めて優れた応答性を実現。
Davidさんによれば、Ultrabookは単なる薄いラップトップではなく、起動時間の短さや長いバッテリー時間(つまりACアダプタを持ち運ぶ必要が薄れる)などといった性能から「PCの新しい利用スタイルを拓くジャンル」になるだろうとのこと。実際に8時間から10時間もバッテリーが持つという製品が出品されており、当然ながらスペックと現実との差を考慮に入れる必要があるものの、「ノマド」と呼ばれるようなワークスタイルを取っているビジネスパーソンには嬉しい存在になるのではないでしょうか。またスマートフォンやタブレットなどによって当たり前のものとなった、ボタンに触れれば瞬時に使えるようになるという感覚に近づくという点でも、ノートPCが再びパーソナルコンピューティングの中心的存在になるという将来を感じさせるかもしれません。あるいは冒頭で紹介した「タブレットにもなるUltrabook」IdeaPad YOGAが象徴しているように、タブレットの使い方に近いPCとして浸透するという予想もできるでしょう。
ただ実際には、Ultrabookがどのような利用スタイルを築き上げるのか、かならずしも明確にはなっていないというのが現状ではないでしょうか。Davidさん自身、Ultrabookはまだコンセプトが登場したばかりなので、まずは消費者に認知してもらうことが優先となり、各社同じような製品が出てくるのではないか(各社の差別化が始まるのはコンセプトが定着してからの話)との感想を仰っていました。特に長時間使えるといった点は実際に生活/仕事の中で使ってみなければ価値を実感することができませんから、どんな手段で認知を図るのか、どんな分かりやすいイメージを打ち出すのかが重要になるのではないでしょうか。
Davidさん曰く、かつてレノボは「製品のカテゴリーを見つけ、そこに自社製品を投入する」というプロダクト指向の会社でした。そこからは脱却しつつある、というのが彼の見立てですが、意地悪な見方をすれば、またIntelが提唱するUltrabookというカテゴリーに乗っかっているだけとも言えるでしょう。レノボのUltrabook関連製品が、単なる新しい製品ジャンルを満たすだけの存在になるのか。それともDavidさんが言うように、PCの新しい利用スタイルを拓くものになるのか。今年は改めてPC界隈が面白くなる一年となるかもしれません。
こちらはオマケ。昨日のYang Yuanging レノボCEOによる"IdeaPad YOGA"発表の様子です:
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