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「ネットで犯罪自慢」はバカだからで済むのか

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ツイッターでカンニング成功を自慢する、ミクシィで飲酒運転を告白する、ブログで盗難を報告する――何だか週に1回ぐらいは「ネットで犯罪自慢」(そして炎上)というパターンを目にしているような気がしますが、そもそもソーシャルメディアに参加する人々が増加傾向にあるという点を別にしても、この状況に「なぜこんなことが続くんだろう?」という思いを抱いている方は多いのではないでしょうか。先日もこんな記事が注目を集めていました:

Twitterで犯罪自慢する勇者が絶えない4つの理由 (秒刊SUNDAY)

記事では「犯罪自慢」が絶えない理由として、以下の4つを挙げています:

  1. 他の人が犯罪自慢をして問題になったということを知らない
  2. 自分のツイートが見られていると思っていない
  3. そもそも犯罪だという自覚がない
  4. ちょいワルな俺カッコイイ的な風潮

これがMECEなまとめかどうかは別にして、恐らくそれほど外れたものではないでしょう。特にカンニング自慢などは、ちょっとした悪ふざけの告白程度にしか思っていないのかもしれません(もちろん悪ふざけでは済まないわけですが)。

ただ1つだけ、以前から気になっていた点があります。それは上記の2.でも挙げられている「自分のツイート(あるいはブログやSNSへの書き込み等)が見られていると思っていない」という指摘に関してなのですが、この「見られると思わなかった」という感覚は、単に「全公開されているという前提を理解していなかった」という解釈で片付けられるのでしょうか。

喫茶店で休憩している時や、電車の中など、何気ない瞬間にふと周囲の会話が耳に入ってくることがあります。そんな時、「こんなこと告白しちゃっていいの?」と驚いたことはないでしょうか。もちろん上記のような犯罪自慢を耳にするのは希だと思いますが、上司の悪口や会社の機密情報など、けっこう「ヤバイ」会話が飛び交っています。僕は以前務めていた会社で、エレベーターの中でプロジェクトに対して批判的な会話をしていた人物が、偶然そのプロジェクトのクライアントに会話を聞かれて厳重注意を受けるなんて状況に遭遇した経験があります。

こうした「公共の場での犯罪自慢(あるいは機密情報の漏洩)」も、誰でも聞くことができる・見ることができる場所での行動に違いありません。しかしそんな場所でも犯罪自慢してしまうのは、聞かれている・見られているという自覚がないからというよりも、「自分のことなど周囲は気にしていない」という意識があるからではないでしょうか。先ほどのエレベーターの中でプロジェクト批判をしてしまった人物も、まさか同じエレベーターの中にクライアントがいるなどとは思っていなかった、つまり自分たちの会話を(聞こえるけれど)聞いている人などいないと思っていたのでしょう。従って「自分の行動が公開されている」という点と、「自分の行動に注目する他人がいる」という点は、別の感覚として捉えられている可能性があると思います。

大きなホールで講演を行う、という状況を「公共の場」だとすれば、見ず知らずの乗客ばかりの電車で移動しているという状況は「半公共の場」と言えるでしょう。つまり半公共という意識はありふれたものであり、日常的に経験していると言えます。そしてこの「半公共の場にいる」という感覚が、ツイッター上で会話する場合に近いのではないでしょうか。確かに誰からも見られているのかもしれない。しかし自分のツイートにいちいち注意を払う人物などいないだろう――そんな感覚です。従ってうっかり犯罪告白してしまうという行動は、全てが「バカ」の一言で片付けられるわけではないと感じています。

まぁその感覚自体が誤りであり、ネットは監視カメラが設置された広場のようなもので、後からいくらでも記録されたデータを検索・チェックできるわけですが。それを理解していないという点を「バカだなぁ」と批判することも可能だと思いますが、ソーシャルメディアというものが普及し始めてまだ数年しか経っていません。新しい状況の中で新しい感覚が理解されて行くためには、もう少し時間が必要なのではないでしょうか。

またその意味では、「ネットに書き込んだら全公開になるのは当然」で片付けるのではなく、半公共という感覚を持ってしまうのが自然であるという前提に立って、その誤解を解くような教育を行ってゆく必要があるのかもしれません(もちろんそもそも犯罪行為が問題であり、それを無くして行くことが大前提ですが)。いずれにせよ、ソーシャルメディア上でコミュニケーションを行う際に発生する心理状態については、まだまだ研究の余地が残されていると考えています。

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