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ゲームとデータと「ジンガ化」の可能性

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ソーシャルゲームのトップ企業、米国のZynga(ジンガ)。"Connecting the World Through Games"(ゲームで世界をつなぐ)のスローガン通り、文字通り世界中にプレーヤーを持っているわけですが、それだけに処理しているデータ量も半端ではありません。Forbesの記事によれば、日々新たに生み出されるデータ量は15テラバイト(ちなみに米国の議会図書館にある蔵書全体でちょうど15TB分なのだとか)。そして世界でも最大級のデータセンターを整備し、得られたデータをリアルタイム分析することを通じて、どうすればプレーヤーに参加し続けてもらえるのか・満足感を高めてもらえるのかといった情報を手にしていると。まさに「ゲーム会社の仮面を被った分析会社」というキャッチフレーズがぴったりです。

しかし逆の見方をすれば、ジンガはゲーム会社であるからこそ、これだけのデータを扱えるという言い方もできるのではないでしょうか。一般的な企業であれば、ユーザーの属性や行動を具体的に把握できる機会はそれほど多くありません。ポイントカードなどの仕組みを導入するという形で、なんとかデータを手にするという状況です。しかしゲームであれば(さらにSNSというプラットフォームをベースにしたゲームであれば)、プレイしているのは誰なのか、どのタイミングでどんな行動をしているのか、どんな感情を抱いているのかといったデータを、ゲーム空間から得ることができます。表現に問題があるかも知れませんが、ある意味でジンガは「無数の観察機器を設置した実験空間を用意し、そこにモルモット自ら参加してもらう」という状況をつくり出していると言えるかもしれません。

いま「ゲーミフィケーション」という言葉がマーケティングの世界で新たに注目を集めています。バズワードの常で、様々な意味で使われてしまっていますが、全体的に見れば「顧客のエンゲージメントを高めるためにゲームの手法を利用すること」と言えるでしょうか。楽しいのでまた来てしまった、また買ってしまったというような行動を達成することが、ゲーミフィケーションの1つのゴールだと思います。

しかし先ほどの例を考えると、ゲーミフィケーションのもう1つの効能は「顧客の行動が事細かに把握できる実験空間を持つことができる」と言えるかもしれません。例えばいま歯ブラシを売っているとして、それを誰が買っているのか・どう使っているのかが良く分からないとします。しかしフォースクエアのように歯磨きしたという行動・歯磨きした場所が記録できる「歯磨きアプリ」を用意したらどうでしょうか。歯磨きすればするほどポイントが貯まり、さらに歯磨きした場所・直前に食べたものに連動して得られるバーチャルアイテムが変化するとすれば、より詳しい歯磨き行動の把握が可能になるでしょう。パッと書いただけですのでメチャクチャな導線設計ですが(笑)、丁寧にデザインすれば、それだけ得られるデータの量と精度は増すはずです。

もちろんここで得られる行動は、消費者本来のものではなく、ある意味で歪められたものです。歯をきれいにするためではなく、アイテムを得るために歯ブラシを使うという本末転倒が起きるかもしれませんが(歯ブラシメーカーならばそのような状況でも構わないと言われるかもしれませんが)、どこまでがオーガニックな行動でどこからが違うのかを把握する、あるいはどこまでオーガニックな行動を守るのかを決めておくといった対応を取ることで、有益なデータを確保することが可能だと思います。

ジンガのように大量データを高速で処理し、そこから知見を得ることを示す「ビッグデータ」というもう1つ別のバズワードも登場しています。一般的な企業であれば、ビッグデータの技術やテクニックが必要なほどのデータを持っていない/データ収集を行っていないという場合が多いですが、ゲーミフィケーションはこの状況を一変させるかもしれません。自らを「ジンガ化」する企業が、これから様々な産業で見られるようになるのではないでしょうか。

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