中国の高速鉄道事故とミニブログ
中国のネットと言えば厳しい検閲が有名ですが、先日発生した高速鉄道の事故に際しては、意外なほど関連情報の共有が行われていたようです。この件に関する中国国内のミニブログの動向を、以下の2つの記事が詳しく伝えています:
■ 感動!温州高速鉄道追突事件に見るミニブログの力 (中国網日本語版)
■ Micro blogs play key role in rail disaster (China Daily)
いったいどのような状況が見られたのか、時系列に沿って箇条書きにしてみましょう:
- 7/23 (事故発生の7分前): 現場近くに住んでいた"Smm_miao"というユーザーが、車両が不意に停車するのを目撃、乗客の安否を気遣うメッセージを投稿。
- 7/23 8:30 pm頃: 事故発生(北京南駅発福州駅行きのD301便と杭州駅発福州南駅行きのD3115便の高速列車が浙江省温州で追突)。
- 7/23 8:47 pm: D301便に乗車していた「羊圈圈羊」というユーザーがミニブログサービス"Weibo"(新浪微博)でSOSを発信。このメッセージは11万2,000回以上転送される。
- 7/23 10:45 pm: 羊圈圈羊が「警察に救助された」とのメッセージを投稿。
- 7/23 (時間不明): D3115便に乗車していた"Lugege"というユーザーが同じくSOSを発信。同時に携帯電話で事故の様子を撮影してウェブ上に投稿する。
- (事故発生後): メディア関係者がミニブログ上で情報収集を行う。
- (事故発生後): 確認された乗客や負傷者等の氏名といった安否情報がミニブログ上を飛び交う。安否確認に関連する投稿は、7/24 5:30 pm 時点で8万件以上。
- (事故発生後): 負傷者に輸血するための血液を集めるため、医療機関から献血の呼びかけがミニブログ上で行われる(献血に駆けつけた市民たちの写真もミニブログ上にアップされる)。
- (事故発生後): 「犠牲者の家族を現場まで送迎する」といったボランティアの申し出がミニブログ上で行われる。
- 7/24 7:00 pm 時点で、事故に関するWeibo上のメッセージは400万件以上。
- 浙江省の政府関係者も、事故の状況についてミニブログ上で情報を発信。
興味深いのは、ここには最近の「災害とソーシャルメディア」の事例に見られる要素がほとんど揃っているという点です。不幸にも事故に巻き込まれ、当事者となってしまった人々や、たまたま現場に居合わせた人々からの情報発信。安否確認を求める情報のやり取り。救援やボランティアを求める声と、それに応じる声。さらに公的機関からの情報発信――これが中国で起きた事件であることを、忘れてしまいそうになる程ではないでしょうか。
中央政府の人々は、この事態を封じ込めることはできなかったのでしょうか。仮にミニブログを一時的に停止できなかったとしても、少なくともこうした状況が生まれたことを国外に報じるのを禁止しても良さそうなものです。「ここまで自由に情報交換できるのだ」というアピールではないかという穿った見方もできますが、事態は権力者の予想以上に速く、広く展開したために手の打ちようがなかったのでは?という仮説を唱えることもできるように思います。
先日の記事でも書きましたが、僕自身この事件を発生してすぐにソーシャルメディア(Google+)上で知り、その時点で現場からの写真と思われるものを目にしていました。こうした「神経系」の広がりと深度について、私たちはもう少し認識を改めても良いのかもしれません。
災害とソーシャルメディア ~混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」~ (マイコミ新書) 小林啓倫 毎日コミュニケーションズ 2011-07-26 売り上げランキング : 10599 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
○ Facebookページ:『災害とソーシャルメディア』
【○年前の今日の記事】
■ ネットで危険なのは若者か、それとも…… (2007年7月26日)
■ 祭りのロングテール化 (2006年7月26日)