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「たとえ敵であろうと、1つの命が失われたことを祝おうとは思わない」とキング牧師は言った……のか?

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"I mourn the loss of thousands of precious lives, but I will not rejoice in the death of one, not even an enemy." - Martin Luther King

「何千もの尊い命が失われたことを嘆くが、1つの命が失われたことを祝おうとは思わない。たとえそれが敵の命であろうとも。」― マーティン・ルーサー・キング

さすがキング牧師。良い言葉を遺してくれましたね。この言葉がウサマ・ビン・ラディンの死に歓喜する米国民を諫めるものとして、いま盛んにTwitter上でツイート/リツイートされています。たとえば以下のスクリーンショットは、先ほどGoogleリアルタイム検索でこの言葉を検索してみた結果です:

MLK_quote

素晴らしい!ぜひ僕らも参加して、世界中に広めていかないと……という結論を下すのはちょっと待って。実はこの言葉、デマである可能性が指摘されています:

Out of Osama's Death, a Fake Quotation Is Born (The Atlantic)

A quick Google search turns up lots of tweets, all of them from today.  Searching Martin Luther King Jr. quote pages for the word "enemy" does not turn up this quote, only things that probably wouldn't go over nearly so well, like "Love is the only force capable of transforming an enemy to a friend." I'm pretty sure that this quote, too, is fake.

What's fascinating is the speed of it.  Someone made up a quote, attributed it to MLK, Jr., and disseminated it widely, all within 24 hours.  

Googleでこの言葉を検索してみると、たくさんのツイートがヒットするが、すべて今日投稿されたものだ。マーティン・ルーサー・キングの名言が集められているページで「敵」という単語を検索してみても、引用されているような文章は出てこない。「愛は、敵を友人に変える唯一の力だ」といったような言葉が見つかるだけだ。従って私はこの引用が偽物であると、自信を持って言える。

なんという速さだろう。誰かが文章をでっち上げて、それをキング牧師の作だと言い、広い範囲に拡散させる。すべてが24時間以内に起きたことだ。

「ネット上でソースが見つからない=デマ」とは限りませんが、少なくともキング牧師の言葉であるとの明確な証拠は得られなかった、と。

ここまでなら「またTwitterでデマが広がったのか」で終わるところですが、意外な展開があります。その後の調べで、この「デマ」の源と思われる場所が見つかったとのこと:

Anatomy of a Fake Quotation (The Atlantic)

少し長くなりますが、だいだい以下のような流れだったようです:

  • 神戸の中学校で英語を教えているジェシカ・ダビーさんが、ビン・ラディン殺害の件について、Facebook上で心境を綴る。その際に投稿されたのが以下のような文章:
    I will mourn the loss of thousands of precious lives, but I will not rejoice in the death of one, not even an enemy. "Returning hate for hate multiplies hate, adding deeper darkness to a night already devoid of stars. Darkness cannot drive out darkness; only light can do that. Hate cannot drive out hate, only love can do that." MLK Jr.
    (何千もの尊い命が失われたことは悲しいが、1つの命が失われたことを祝おうとは思わない。たとえそれが敵の命であっても。「憎しみを憎しみで返しても、さらに憎しみを増してしまうけだ。星のない暗い夜を、さらに暗くしてしまうだろう。暗黒で暗黒を消し去ることはできない。それができるのは光だけだ。憎しみで憎しみを消し去ることはできない。それができるのは愛だけだ」と、キング牧師は言っている。)
  • この文章がFacebook上で盛んに引用される。ところが以下のように、引用符が付かない形で:
    I will mourn the loss of thousands of precious lives, but I will not rejoice in the death of one, not even an enemy. Returning hate for hate multiplies hate, adding deeper darkness to a night already devoid of stars. Darkness cannot drive out darkness; only light can do that. Hate cannot drive out hate, only love can do that.
  • さらにこの言葉がFacebookからTwitterへと流出。しかしその際に(140字制限があるため)冒頭の「敵であろうと命が失われたことを祝おうとは思わない」という部分だけが引用され、これがキング牧師の言葉として伝えられることになる。

ということで、実は悪意をもって伝えられたデマではなく、ささいな誤解と字数制限によって生まれてしまったものだったのですね。そしてたまたま、Twitter上で引用された文章が著名人によってリツイートされたことで、この「キング牧師の名言」は一気に拡散。収拾が付かない事態になってしまった、と。

「だからリツイートは慎重にしろとあれほど言われてるのに……」と、この「デマ」の拡散に協力してしまった人々を非難することは簡単でしょう。実際僕も、これまで何度かそんな記事を書いてきましたが、一連の記事を書かれたMegan McArdleさんは次のような教訓を導いています:

Though one commenter accused me of trying to make people feel stupid for having propagated the quote, that was hardly my intention--we've all probably repeated more fake quotations than real ones. Fake quotations are pithier, more dramatic, more on point, than the things people usually say in real life.  It's not surprising that they are often the survivors of the evolutionary battle for mindshare.  One person actually posted a passage which integrated the fake quotation into the larger section of the book from which the original MLK words were drawn.

We become invested in these quotes because they say something important about us--and they let us feel that those emotions were shared by great figures in history.  We naturally search for reasons that they could have said it--that they could have felt like us--rather than looking for reasons to disbelieve. If we'd put the same moving words in Hitler's mouth, everyone would have been a lot more skeptical.  But while this might be a lesson about the need to be skeptical, I don't think there's anything stupid about wanting to be more like Dr. King.

あるコメントでは、私が引用の拡散に協力してしまった人々をバカにしているといって非難していたが、それは私の意図するところではない。恐らく私たちはみな、本物よりも偽物の名言の方を多く引用しているのだろう。偽物の名言は、人々が日常で使っている言葉よりも明快で、ドラマチックで、優れたものに見える。人々の記憶に残るための戦いで勝者になるのも、何ら不思議ではないだろう。あるケースでは、偽物の言葉がキング牧師の本物の言葉と組み合わせて投稿されていた。

私たちがこうした引用に肩入れしてしまうのは、それが大切なことを言っていて、さらにそうした感情が歴史上の偉人達にも共有されていたのだ、という心境にさせてくれるからだろう。そして疑うよりも、本当に彼らがそんな言葉を言っていた――そして私たちと同じことを感じていた――という証拠の方を探してしまう。もし同じ言葉をヒトラーの言葉だとして紹介したら、皆が疑うに違いない。しかし今回の一件が疑うことの重要性を教えてくれるものだとしても、キング牧師のようになりたいという心境が愚かなものだということではない。

自分がいま抱いている心境とまったく同じ心境を、歴史上の有名人が抱いてくれている。そんな嬉しさが判断をにぶらせ、結果として盲目的にリツイートボタンを押すということになってしまうのでしょう。複雑な状況を、一刀両断に説明してくれる。しかも信頼のおける人物が――そんな状況の時ほど、あえて疑い深くなる必要があると。もちろんそれは、回ってきた引用文や、その作者とされる偉人達を貶めるような行為などではありません。

さらに言えば、この逆パターン、つまり「(世間から嫌われている人物)がこんな非道いことを言っていた!」という情報が回ってきた場合にも注意する必要があるでしょう。震災関係でも盛んに政治的デマが飛び交っていましたが、怒りを感じるような言葉であればあるほど、まずは深呼吸して心を落ち着かせるように努めなければならないと思います。そして自分自身が引用/リツイートする際には、無意識のうちに元の文章を変えてしまうことのないように。たとえ140字に収まらなかったとしても!

< 追記 >

同じくThe Atlantic誌で、意図せざるデマの出発点となってしまったジェシカ・ダビーさんに対するインタビュー記事が掲載されています。ご興味のある方はどうぞ:

The (Shy) Woman Whose Words Accidentally Became Martin Luther King's (The Atlantic)

彼女自身、今回の騒動には驚いていて、自身のTwitterアカウント(@jmadly)を通じて誤解を解こうとしているようです:

JD_1

「私か『キング牧師の言葉』とされている引用文の、オリジナルを書いた者です。私が投稿した言葉が、どこかで混ざって伝えられてしまったのです。その投稿がこれ」

こちらが彼女が投稿した「証拠写真」。確かにThe Atlantic誌で解説されている通り、最初はFacebook上の投稿だったようですね:

JD_2

【○年前の今日の記事】

Google Earth と差別問題 (2009年5月4日)
「若者が海外に行かないのは、ネットで行った気分になるから」論に学ぶべきもの (2008年5月4日)

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