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「革命のファンページ」では何が語られているのか

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チュニジアでの独裁政権崩壊が波及する形で、他の北アフリカ諸国でも政治的な混乱が続いています。特に現在注目を集めているのが、先日も取り上げたエジプトでの市民による抗議活動。チュニジア同様、政治体制や経済への不満が政権への抗議として現れていると伝えられており、さらにチュニジアと同様、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアが活用されていると報じられています。

一方でこれらの事件の中で、「ソーシャルメディアがどこまでの役割を果たしているのか」という点については、様々な形で議論が続けられています。「まさにソーシャルメディア革命だ」と言う人あり、「なくても大きな違いは出なかっただろう」と言う人あり。それぞれが説得力のある意見を展開していますが、実際にはソーシャルメディア上で何が語られているのでしょうか?

先日の記事でもご紹介したように、山崎富美さん(@fumi)とチュニジア出身のRafik Dammakさん(@rafik)が登壇されるイベントが、昨日GLOCOMで開催されました。その中でRafikさんは、「チュニジアの抗議活動においてはFacebookが市民間での情報共有に、Twitterが海外に向けての情報拡散に活用された」という解説をされています。チュニジアとエジプトの状況が同じだなどというのは、日本と中国が同じ国だと言うぐらい乱暴なことですが、今回は同じ傾向がエジプトでもあると仮定して、Facebook上での動きを見てみることにしましょう。

エジプトでの事件を取り上げた報道の中で、「抗議活動に大きな影響を与えている」として頻繁に紹介されているFacebookファンページが"We are all Khaled Said"です。Khaled Saidとは、アレクサンドリアでの市民による抗議活動中、警察から暴行を受けて亡くなった若い男性の名前。政権側の弾圧で犠牲者が出てしまい、その人物が一種の象徴となって市民運動が盛り上がるというのは、残念ながら珍しい状況ではありません(イランのケースではネダさんが、チュニジアのケースではブアジジさんがその立場に当たるでしょう)。この場合も同様に、「私たち全員がKhaled Saidなのだ」と訴えることによって行動を促そうとしているのでしょう。

egypt_facebook_1

現時点で「いいね!」を投じているのは21,528人。ただし上のスクリーンショットからもお分かりのように、文章はほとんど英語で投稿されている(参加ユーザーからのコメントの中にアラビア語がまじる程度)ので、僕のように外国人でエジプト情勢を知りたいと考えている人も「いいね!」している可能性があります。また運営者自身が、海外の目を意識して運営を行っている可能性もあるでしょう。その点は割り引いて内容を見て行く必要があります。

残念ながら投稿されているコンテンツを機械的に分析するツールはないので、「僕が見た限り」という何とも頼りない情報になってしまいますが、掲載されている情報は「いま~で抗議活動が行われていて、多くの人々が集まっている」「警官がデモを制圧しようとしている」などの実況や、実際の現場を移した写真や映像、そして「自由を勝ち取ろう!」といったスローガン的なものが中心。「~の町でデモが行われている/行われるから参加しよう!」的な書き込みはありますが、メディアで報じられているような「Facebookで抗議活動を組織化」という印象はありません。むしろ「世界中からこんなに支援の声が」というようなメッセージに象徴されるように、仲間がいると伝えることで、人々の士気を高めようという意識の方を強く感じます。

また興味深い点が、以下のような書き込みが散見されること:

Egyptian government always scared the world and esp western governments that they go, extremists will rule. This is a lie & a farce. They are now trying to stick the protests and those hundreds of thousands to the opposition group Muslim Brotherhood not to the people. That's even a bigger lie.

エジプト政府は常に、「我々が倒れれば過激派が政権を握る」と言って世界を、特に西側政府を脅してきた。そんなのは嘘で、とんだ笑い話だ。いま彼らは抗議活動の参加者を、エジプトの一般市民ではなく、ムスリム同胞団などの反対勢力と結びつけようとしているが、それこそもっと大きな嘘だ。

このファンページが抗議参加者、あるいはエジプト国民との情報共有だけの場であれば、このようなメッセージは必要ないはずです。従って「海外から見ている人々に対するアピール」という側面がある可能性は高いでしょう(もちろんそれは悪いことではなく、ソーシャルメディアの活用法として十分に意味のあることだと思います)。

それでは、アラビア語で更新されている関連ファンページではどのような状況なのでしょうか。ここでもマスメディアの報道を頼らざるを得ませんが、"We are all Khaled Said"と同様に頻繁に紹介されている活動として"6th of April Youth Movement"があります。直訳すれば「4月6日青年運動」ということになりますが、これは2007年に結成された運動で、今回の騒動が起きる前から抗議活動を続けてきた(そしてこれまでは政府に押さえ込まれてしまっていた)とのこと。彼らはファンページ(現時点で26,865人が「いいね!」)とグループ(85,991人が参加)をFacebook上に開設しており、どちらもアラビア語中心で運営されています。

egypt_facebook_2

これも残念ながら僕はアラビア語が読めないので、Google翻訳で英語に変換しながら確認した結果という但し書きがついてしまうのですが、こちらのファンページおよびグループの方がより具体的な情報が交換されているようです。実況一つとっても、「スエズで警察の装甲車が目撃されている」「軍隊の出動は確認されていないが、警官とデモ隊の間で小競り合いが続いているようだ」といった具合。また「デモの場所を変更する」など、活動の組織化という言葉に近い情報がやり取りされています。"We are all Khaled Said"が情緒的な訴えだったのに対して、"6th of April Youth Movement"の方が実務的な情報交換というイメージでしょうか。

こういった情報交換がどこまで実際に「組織化」に役立ったのかは、より詳細な分析を待たなければなりません。少なくとも最大で8万人というバーチャル上の集団では、エジプト人口約8,000万人の前では微々たる存在だと言わざるを得ないでしょう(エジプトのFacebookユーザー数は約408万人とのことですから、それと比べても決して多くはありません)。ただ前述のRafikさんによれば、チュニジアではローカルレベルでの活動家が各地に存在し、(ネットに頼らない形での)活動の組織化は主に彼らが担っていたとのこと。一方で彼ら全体を束ねるようなリーダーは存在せず、同時多発的に抗議活動が起きていったそうです。仮にエジプトでも同じような状況であれば、何らかの形でバーチャル上の情報交換とリアルでの組織活動が組み合わさって、大きな流れを生み出していったと想像できるかもしれません。ちなみに先ほどの"We are all Khaled Said"も、Facebook以外に公式サイトを有しており、参加者は50万人に達しているとの報道もあります。

ところで昨年の10月、人気作家マルコム・グラッドウェルがNew Yorker誌上に発表した1つの論文が物議を醸しました。その内容は「ソーシャルメディアでは革命は起きない」というもの。タイミング良く、クーリエ・ジャポンの2011年3月号で「"つぶやき"では革命は起こせない」というタイトルで翻訳されていますので、機会があればぜひ一読してみて下さい。

その中でグラッドウェルは、ソーシャルメディアでは革命を起こせない理由として、「『弱い絆』を土台として発展するソーシャルメディアでは、『強い絆』に基づく覚悟が必要な、危険な社会運動を起こすことには向かない」という点と、「強力な組織力を持つ社会的な権威に立ち向かうには、対抗する側の組織構造もヒエラルキー型でなければならない」という点の2つを挙げています。確かにこの議論には強いロジックがあり、僕が好きなクレイ・シャーキーらも反論を行っているのですが、決着はついていません。

ただ彼の意見を崩さなくても、今回の件は説明がつくのではないかと考えます。チュニジアやエジプトの人々は既に強い不満を抱いており、そもそもソーシャルメディアによって新たな思想をアピールしたり、考えを覆す必要はありませんでした。必要なのは「自分と同じように不満を持っている人は多くて、しかもその人たちがいま何か行動を起こしている」と知らしめ、行動のきっかけを与えることだったのではないでしょうか。特にチュニジアでは、強力な検閲体制が敷かれ、自由に発言できる場がありませんでした。その場を与え、「若者の死」という象徴的な出来事によって人々の感情が爆発した際に、受け皿となって人々の間に連帯感を生んだというだけでも、ソーシャルメディアの果たした役割は小さくないでしょう。

また第2の点、組織力には組織力を持って対抗せねばならないという議論についても、先ほどの「リアルでの活動組織がバーチャルと組み合わさった」と考えれば合点がいきます。それを「やはりリアル組織は欠かせないのだ」と見るか、「ソーシャルメディアが彼らの力を倍増させたから今回成功できたのだ」と見るかは視点の差にしか過ぎません。両方を視野に入れることで、初めて正しい姿が見えてくるのではないでしょうか。

長々と書いてしまいましたが、あくまでも今日空いた時間にネットを見て、東京すら出ずに情報を拾っただけの考察に過ぎません。本当はどこまでソーシャルメディアが重要だったのかは、一連の騒動が落ち着いた後で、多角的に調べてみないと判断できないでしょう。それこそRafikさんのように、現場に近い人々と直接接してみないと分からないことも多いと思います。ただこうして遠く離れた国でも現場の声に接することができ、また言葉の壁を越えて彼らの息づかいを感じられるという点だけは、ネットがもたらした革命的な変化だと言うことができるのではないでしょうか。

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