オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

サンフランシスコ市、EV用充電器への対応を建築基準で義務付け

»

EV(電気自動車)の普及には様々な要素が欠かせませんが、中でも重要なものの1つが充電インフラの整備でしょう。言うなれば、従来のガソリンスタンド=ガソリン供給インフラに相当するものを一から創り上げなければならないわけですから、ある意味でEVそのものの開発・進化以上の紆余曲折が予想されます。例えば:

コンセントは? EVに思わぬ難敵(産業部編集委員 西條都夫) (日経産業新聞online)

電気自動車用の高速充電装置を1基装備するのにどのくらい費用がかかるか、読者の皆さんは見当がつくだろうか。充電装置自体の価格は約350万円。かなり高めだが、いずれ量産化が進めば、急速に安くなるだろう。

だが、装置の値段は全体のコストの氷山の一角にすぎない。高速充電するためには、新たな受電設備が必要になるケースが多く、そのために大型のトランス(変圧器)などを導入する必要がある。設置する場所によっては、構内の配電網にも手を加えなければならない。

ネクスコ東日本(東日本高速道路会社)は今年度末までに首都圏のパーキングエリア4カ所に高速充電設備を設置する計画だが、1カ所あたりの平均費用は2500万円から3000万円に達するという。

というように、単に装置だけポンと渡して済むという話ではありません。そんな中、サンフランシスコ市では、充電インフラ普及に向け条例レベルでの後押しを始めたとのこと:

San Francisco gears up for age of electric car (Guardian.co.uk)

ご存知の方も多いと思いますが、カリフォルニア州、中でもサンフランシスコ市はEVベンチャーの拠点に近いということもあり、以前からEV普及に向けた支援策が実施されています。そして今回、新たに出てきた動きが:

San Francisco has adopted building codes requiring all new homes and offices to be wired for electric car chargers, in an attempt to position itself as America's green car capital.

The move comes in advance of the release this year of the Nissan Leaf and Chevy Volt, which promise to deliver driving distances of 40 miles or more on a single battery charge and are being marketed to middle-class families.

Local authorities are launching a lending scheme next month to encourage homeowners to install their own charging stations.

"If you want to put an electric charging station in your home in anticipation of all these electric vehicles, you can do it through this green financing programme," said San Francisco's mayor, Gavin Newsom.

サンフランシスコ市は建築基準を改正し、新しく建設される住宅およびオフィスについては、電気自動車用充電器のための配線の敷設を義務付けることを定めた。これは同市が米国における「グリーン・カー」の拠点となることを目指した動きである。

今回の改正は、今年予定されている電気自動車の発売(日産リーフとシボレー・ボルト)に先んじて行われた。これらの新型車両は、1回の充電で40マイル以上の距離を走る性能を持ち、ミドルクラスの家族をターゲットにしている。

また関係各局は、来月発表予定の融資スキームの立ち上げに取り組んでいる。これは住宅所有者に対し、充電ステーションの設置を促すことを目的としている。

サンフランシスコ市長の Gavin Newsom は次のように述べている。「電気自動車用に、自宅に充電ステーションを設置したいと考えている人々は、今回整備されるグリーン融資プログラムを利用することができる。」

というわけで、残念ながら建築基準そのものをチェック出来ていないのですが(この辺りで確認できるようですが、まだ更新されていません)、いざ「充電器を設置したい」となった時にすぐに対応できるように建物側を整備しておく、という趣旨の政策のようです。また引用文中にあるように、資金面でもバックアップが行われるわけですね(こちらはサンフランシスコ以外にも類似施策を実施しているところがありますが)。

こうした施策の必要性については、同じくサンフランシスコ市の取り組みを扱った New York Times の記事でも指摘されています:

Cities Prepare for Life With the Electric Car (New York Times)

Much of the attention on electric cars has been on the vehicles’ design, cost and performance. But success or failure could turn on more mundane matters, like the time it takes car buyers to navigate a municipal bureaucracy to have charging stations installed in their homes.

When the president of the California Public Utilities Commission, Michael R. Peevey, leased an electric Mini Cooper, he said, it took six weeks of visits by installers and inspectors before he could plug in his new car at home.

“It was really drawn out and frustrating and certainly is not workable on a mass basis,” Mr. Peevey said.

電気自動車に関する議論の多くは、デザインや価格、性能面に集中している。しかし電気自動車が成功するか否かは、もっと些細な要素、例えば「自宅に充電ステーションを設置しようとした時に、市当局での手続きにどのくらい時間がかかるか」などといった点にもかかっているのだ。

カリフォルニア州公益事業委員会の Michael R. Peevey 委員長によれば、彼が電気自動車版ミニクーパーをリースした際、自宅で充電できるようになるまでに6週間もかかった。充電器のインストールや、調査員による訪問確認にそれだけの時間がかかったのである。

「それは本当にイライラさせられる体験でした。一般的に普及するようになったら、こんなことでは駄目でしょう」と Peevey 氏は述べる。

とのこと。確かに、どんなに性能の良いEVと充電器が実現されたとしても、満足に使えるようになるまでに6週間も待たされるというのではストレスが溜まるでしょう。もちろん電力インフラを管理する立場からすれば、そんなに簡単に(系統に負荷を与える)充電器を設置させるわけにはいきませんし、「今だって新車の納入には時間がかかるのだから、1ヶ月ぐらい待てるだろう」という考え方もあると思います。しかしこうした意外な面でもネックになり得る要素があること、そしてその存在を把握して対策を考えておくことは重要でしょう。

ということで、先進的な地域ではいよいよEVが生活の中に登場し、様々な問題点が浮き彫りにされつつあるわけですね。早く取り組めばそれだけ問題の顕在化も早く、そして解決策が出るのも早いはず。日本でも大阪府などがEV支援に積極的に乗り出していますが、こうした現実的な問題の洗い出しにまで早く至ってくれることを願います。

関連で、こちらの記事を読んでおいても面白いかも:

Cali Rulemaking Offers Glimpse of Future Electric Car Charging Biz (Earth2Tech)

ビジネス面から見たEV用充電器(この場合は特に急速充電器)について。充電ビジネスの実現に際しても、様々な規制が問題となり得ることが指摘されています。例えば:

Potential business models in the EV charging sector fall into two basic categories, according to the environmental groups Friends of the Earth and the Natural Resources Defense Council. The categories include the utility model, in which charging companies “procure electricity directly, instead of purchasing electricity from local utilities” — and could face heavy regulations —  and the utility customer model, in which companies provide electricity purchased from local utilities and could enjoy a relatively light touch from regulators.

環境保護団体の"Friends of the Earth and the Natural Resources Defense Council"は、EV充電ビジネスの潜在的ビジネスモデルを2つの基本カテゴリーに分類している。1つは「ユーティリティ・モデル」で、充電ステーションを提供する企業が「地元の電力会社から電気を調達するのはなく、自前で用意する」というもの(この場合、様々な規制に直面することになる)。そしてもう1つが、電気を地元の電力会社から調達する「ユーティリティ・カスタマー・モデル」であり、こちらは比較的規制が少ない。

ということで、当然ですが電力の供給形態によっても関わる規制が変わってくるわけですね。さらに米国における関連情報について知りたいという方は、以下の資料(※PDFファイル)を確認してみて下さい:

米国環境ビジネス動向レポート 第6号:プラグイン車関連市場(バッテリー、充電インフラ) (JETRO)

電気自動車が革新する企業戦略 自動車、ハイテク、素材、エネルギ−、通信産業へのインパクト 電気自動車が革新する企業戦略 自動車、ハイテク、素材、エネルギ−、通信産業へのインパクト
日経Automotive Technology

日経BP出版センター 2009-11-02
売り上げランキング : 20693
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
Comment(1)