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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

三菱総研が発刊した季刊誌『フロネシス』の第1号を購入。週末に自宅で読んでいました。“2030年の「クルマ社会」を考える”というのが今回の特集で、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の話から社会インフラ、ライフスタイルに至るまで幅広い視点が網羅されており、いろいろと考えさせられる内容でした。

そんな様々な側面が扱われた特集の冒頭に登場しているテーマが「安全」。「80歳になってもドライブがしたい!」というサブタイトルが付けられ、日本では高齢ドライバー(65歳以上)の死亡事故の割合が増加傾向にあること、一方で2030年には高齢ドライバーが全体の20%を超えると予想されていること等が紹介されています。では未来の日本の「クルマ社会」は危険きわまりないものになるかというとそんなことはなく、ITと高速無線通信技術を活用することで、「センサーで自動的に衝突回避するクルマ」「ドライバーの健康状態をチェックして必要なアドバイスをしてくれるクルマ」などが登場するだろうと述べられています。

これはあながち絵空事というわけではありません。日本国内には優秀なセンサーを開発する技術がありますし、WiMAXなどの登場によって無線高速通信も現実のものとなってきました。メーカーも高齢者に配慮した車両の開発に取り組む一方、行政側からもこんな動きが出ています:

35道府県知事が集結 「高齢者にやさしい自動車開発推進知事連合」 発足! (ケアマネジメントオンライン)

高齢者が運転しやすい安全な自動車の開発をめざし、35道府県知事で構成される「高齢者にやさしい自動車開発推進知事連合」が発足した。5月18日に開かれた初会合では、会長に福岡県知事の麻生渡氏が選出され、事業計画や各道府県の取組み事例が発表された。

高齢ドライバーに優しい車を 知事連合、開発へ腕まくり (asahi.com)

自治体が高齢者向け自動車の開発を進めるのは、自動車産業の盛衰は、地域経済の浮沈にかかわるからだ。

近年、業界は若者の車離れに悩んできた。運転免許の保有者に占める24歳以下の割合は、97年の13.7%から07年は8.9%に。昨冬からの世界同時不況で北米市場が冷え込み、大打撃を受けた。

業界の視線はハイブリッド車、電気自動車など「環境」に注がれているが、トヨタ自動車九州の須藤誠一社長は「車の安全機能向上の開発は地道に続けている。それを生かす形で高齢者需要は掘り起こせる」と期待する。

ということで、高齢者用自動車の開発はお年寄りの安全を守るだけでなく、自動車産業の維持という点でも重要なわけですね。国内の自動車メーカーにとっては、「高齢ドライバーの安全対策」が「環境対策」と同レベルのプライオリティを持つようになるのかもしれません。

――しかし高齢者への対応は、本当に自動車産業にとってプラスとなるのでしょうか。昨夜、この番組を観て漠然とした不安を感じた方も少なくないはずです:

NHKスペシャル|自動車革命 第2回 スモール・ハンドレッド 新たな挑戦

中国の農村部で「電気自動車ブーム」が起きている。町工場が雨後のタケノコのように生まれ、今まで自動車と縁のなかった層が新たな市場として活気づいている。新興メーカー中には、ヨーロッパに進出するなど、自動車メーカーと市場争いを繰り広げるところも出てきた。

EVについては、まだまだ本格的な普及にまで長い時間がかかるという見方があります。バッテリーの問題やインフラ整備の問題を考えれば妥当な予測ですよね。また仮にEVの時代がやってきても、日本の自動車メーカーはこれまでのクルマ作りのノウハウを活かして、今の覇権を維持できるという予測もあります。こちらも可能性の高いシナリオで、個人的にもそうなることを心から願っています。

しかし昨夜のNHKスペシャルでは、内燃機関自動車に比べ格段につくるのが容易なEVの世界で、無数のベンチャー企業が登場して激しい生存競争を行っている姿が紹介されていました。そして彼らが開発した、まだ自動車としては荒削りな乗り物であっても、それを受け入れる大きな市場があることも。市場と激しい競争の2つが揃えば、そこから優秀なプレーヤーが生まれてくるのは当然であり、事実優れたEVを開発する中国企業が登場してきたことを番組では取り上げていました。

もちろん高齢者用自動車も大切な存在であり、他の国々にも需要が存在するでしょう。しかし高度なIT技術と無線通信技術を必要とするクルマを受け入れられる地域は、そう多くないはずです。むしろ高機能・高価格を追求することで、市場をせばめてしまう可能性もあるはず。日本国内の高齢ドライバーの安全対策として「高齢者にやさしい自動車」を促進することは全面的に賛成しますが、それが自動車産業の活性化につながるかどうかは熟考を要するのではないでしょうか。仮に「環境」と「高齢者の安全」という2正面作戦が国内メーカーの体力を奪うようであれば、公共交通の充実など、そもそも高齢者になってからもクルマを運転しなければならないようなシチュエーションを減らすということもできるはずです(もちろん公共交通の充実も簡単な話ではありませんが)。

怖いのは、「海外で売れなくなる>(比較的)大きな国内市場に目を向ける>国内市場で売れる技術、高く売るための高性能に特化する>さらに海外で売れなくなる」というガラパゴス化が起きることです。『フロネシス』を読んで夢のような未来のクルマにワクワクする一方で、中国の地方都市を席巻するオモチャのようなEVに不安を感じる、そんな週末でした。

三菱総研の総合未来読本 Phronesis『フロネシス』〈01〉2030年の「クルマ社会」を考える (フロネシス 1) 三菱総研の総合未来読本 Phronesis『フロネシス』〈01〉2030年の「クルマ社会」を考える (フロネシス 1)
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コメント
そーき 2009/11/30 03:48

私は現在41でほとんどの移動を二輪車で行なっており、生涯運転したいと思います。けれども人間加齢すれば程度の差はあれ、認知判断行動ともに衰えてしまうもので、最大限老化防止に励んでも、問題なく運転できるのはほんの一握りになるでしょう。そう考えると小林さんの結論はその通りだと思います。度を越えた機械等の介入は「走る凶器」を操縦するのには危険ですらあります。私自身もきちんと運転できなくなったら、涙を飲んで運転を止めざるを得ません。

みけたん 2011/02/02 08:40

「小さいシルバー車」なるものを開発しようという動きがあるようだが、航続たった60キロの電気自動車など、実用になるはずがない。そもそも既に存在する「ミニカー」と何が違うのか。国交省の役人がねらっているのは、「シルバー車検査協会」を作って天下り先を増やすことだけだろう。

私も運転したい 2011/02/06 15:06

ハイテクを駆使した半自動運転を目指している様だがなぜ高齢者なのか。
ギリギリで視力が足らず資格を取れない人も沢山いるぞ。
知事ならもっと視野を広く持って多くの人が利用できる車を作って欲しい。


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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