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視聴率ではなく、視聴者と向きあう時代

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一昨日の話になりますが、日本テレビの久保社長が辞任しました。既にご存知だと思いますが、同局の番組「真相報道バンキシャ!」の中で虚偽の発言に基づく報道がなされ、逮捕者まで出る騒ぎになったことに対する責任を取ったものです:

バンキシャ虚偽報道で日テレ社長が引責辞任 (ITmedia News)

月曜日の晩はちょうど「変化する顧客をとらえるWOM(クチコミ)マーケティング」と題されたイベントに参加していて、その中で株式会社カレンの四家さんが「以前から存在していたクチコミに今これほど注目が集まっているのは、ネットと情報発信ツールの充実によりクチコミが可視化されるようになったことに加え、大手メディアの評判が落ちてきたことが理由として挙げられる」といった趣旨の発言をされていました(例によって録音していたわけではないので、細かい言葉の違いはご容赦下さい)。四家さんはまさしく「最近テレビをつけると、どっかの社長がお詫びしてますよね(あるある大事典の時のように)」と仰っていたのですが、それと同じ状況が再現されてしまったわけで、皮肉めいたものを感じます。

ブログやミニブログ、SNS等を通じた個人の発言が重要性を増してきたというときに、僕はどうしてもネットや情報発信ツールの充実という方に目が向いてしまいます。しかし四家さんが指摘されたように、従来型のマスメディアにほころびが見え始めたことで、相対的にCGMの地位が向上しているという面も無視できないでしょう。もちろんマスメディア全体が腐っているのではなく、ほとんどの場合は正確な報道がなされているのでしょうが、少数の悪い事例が全体の問題として捉えられてしまうというのはネットもマスメディアも同じことです。「ニューズウィーク日本版」元編集長の藤田正美さんは、最近のコラムの中で「情報洪水の中では情報をフィルタリングしてくれる『目利き』の存在が重要」と指摘した上で、

これらの「目利き」の人々がいるのは、現在のところはまだ紙や電波の世界だと筆者は思う。ネットにも信頼できる目利きが各分野で登場すれば、いよいよ紙メディアは衰退するだろうと思うが、実際にはどうなるだろうか。

と述べていますが、残念ながらネットで信頼できる目利きが登場する前に、マスメディアは「目利き」としての信頼を失いつつあるのではないでしょうか(個人的にはネットでも既に「目利き」と呼べるに値する人物が多数存在していると思いますが)。であればネット云々とは関係なく、マスメディアの衰退は不可避のはずです。

それではマスメディアはどうすれば良いのか。僕などが答えを出せるようであれば既に他の誰かが問題解決しているはずですが、日テレ社長辞任に関して、ちょっと気になった点があります。以下、この問題を報じた朝日新聞の記事(3月17日付朝刊39面)からの引用です:

ずさんな取材が明らかになった日本テレビの報道番組「真相報道バンキシャ!」の誤報問題は16日、社長の引責辞任に発展した。「取材する側」から「される側」に回った同社の記者への対応方針は揺れ、会見も紛糾。なぜ誤報が生まれたのかの核心は明らかにならなかった。

朝日新聞以外のメディアでも、会見が満足のいくものではなかったことが指摘されています。もともと会見など「謝っている姿勢」を見せるためのもので、真相を追求する場ではないと言ってしまえばそれまでですが、それでは別の形で日本テレビから詳しい解説が行われているかというと――僕が見た限りの話で恐縮ですが、目立つ形では存在しないようです。聞くのは得意だけれど、語るのは苦手。ここに問題の一辺があるのではないでしょうか。

ネットとマスメディアが大きく異なる点の1つは、そこに「会話」が存在しているか否かです。マスメディアの場合、情報はメディアの側から投げられるだけで、視聴者はそれを消費することしかできません(視聴者から送られたネタで構成されるお笑い番組、などはありますが、あくまでも少数派でしょう)。しかしネットの場合、視聴者は様々な反応を情報発信者に返すことができ、それに情報発信者の側が応えること――つまり「会話」を行うことが当然となりつつあります。例えばブロガーが何か間違ったことを書き込んだ場合、読者からの様々な反応に晒され、その反応に十分に対応できなければ「炎上」という結果に陥る危険があるわけですね。その良し悪しは別にして、会話の有無という点がネットとマスメディアの違いと言えるでしょう。

いま、「会話」に慣れた消費者は、それを個人だけでなく企業の側にも求めつつあります。ITmedia 読者層の方々であれば、既に一般企業が様々な形でソーシャルメディアを活用している事を解説するまでもないと思いますが、その流れはマスメディアにも向かいつつあるのではないでしょうか。ブロガーが自分たちに丁寧に話しかけ、疑問に答えてくれるように、マスメディアにも接して欲しい。仮にそうだとすれば、上記の日テレのような「不祥事があったら会見で社長が謝って終わり」的対応は不十分であり、逆に危険なはずです。

視聴率という数字ではなく、視聴者という個人の人間をイメージして、それに向きあうことを考える。そうなれば、自ずと何をすれば良いかが見えてくるのではないでしょうか。あるいはそれは、「ネタを拾って投げたら終わり」という「消費」ではなく、「投げた後で相手から投げ返してもらうのを待ち、もう一度投げ返す」という「関係」への転換と言えるかもしれません。その意味で、ブロガーがメディアに、ではなくメディアがブロガーに、学ぶべきところは大きいと思います。

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