「補完」の一形態としての New York Times "The Local"
昨日のエントリで「職業記者とブロガーが相互に補完し合うような関係が理想」と書きました。実はそこで実例を挙げようと思っていたのですが、長文になってしまうので、このエントリに独立して書きたいと思います。
既に立ち上がっているものですので、ご存知の方も多いと思いますが、今月2日に"The Local"なるサイトが登場しています。ブルックリンにある2つの地域をカバーするローカルニュースサイトで、一般のブロガーや読者から提供された記事が中心になっているのですが、実はこれを運営しているのは New York Times。背景については、TechCrunch の記事に詳しく解説されています:
■ New York Times、地域版ブログのネットワークを月曜にもローンチへ(確認ずみ) (TechCrunch Japanese)
この記事の中でも指摘されている通り、New York Times は既に「Times Extra」というトップページを設置しており、これを選択するとヘッドラインの近くに関連ブログが表示されるようになっています(参考記事)。これだけでも既に「既存メディアとブログの融合」とでも呼べるものですが、今回はさらに関係を深めて、ブロガーの記事で構成されるニュースサイトを自ら立ち上げてしまったということですね。
もちろんこの"The Local"がどこまで成功するかは分かりません。中を見ていただければ分かると思いますが、サイトの内容はごくシンプルなものであり、情報量や情報の質、使い勝手といった基本的な部分で競合サービスと戦っていくこととなるでしょう。Times の記者は2名しか参加していないとのことですから、New York Times が運営しているということでプラスになるのはブランド力のみ。読者の記事提供に頼るので取材・編集コストがさほどかからないとはいえ、広告ベースの収益で黒字化し、サイトを存続させられるかどうかは未知数だと思います。
とはいえ New York Times の取り組みは、既存メディアが取り得る1つの方向性になるのではないでしょうか。メディアの未来を予言して話題を呼んだビデオ"EPIC2014"の作者、ロビン・スローン氏は朝日新聞"GLOBE"の取材に対し、こんなことを述べています(元記事へのリンク):
―― 伝統的なマスメディアは何をしたらいいでしょう。
ネット上で成立する新しいビジネスモデルを構築しないといけない。僕が朝日新聞の戦略担当だったら、自分たちでニュースを発掘して配信するだけじゃなく、ネット上の情報を集めて再編集して見せることも始めるよう、アドバイスするよ。
ネット上の情報を集めて再編集して見せる。既存メディアに「情報のクオリティとプライオリティを見極め、読者が本当に知るべき情報を提供する」という力が本当にあるならば、玉石混交と形容されるネットの中から価値のあるニュースをつくりだすことができるでしょう。それは取り組んでみる価値のあることであり、まさに New York Times が行おうとしていることなのではないかと思います。その意味で、新聞が仮想敵国として置くべきなのは無数のブログではなく、その中から価値ある情報だけをピックアップすることに(程度の差はあれど)成功しているソーシャルニュースサイトや、ソーシャルブックマークサイトであるべきではないでしょうか。