新聞社がIT企業になる日
New York Times がインターネットへの対応を推進していることは、多くの方がご存知だと思います。中でもマルチメディア・セクションには力が入っていて、僕もブログで散々取り上げているのですが、例えば最近もこんなページが公開されていました:
■ Welcome, 44, From 43, 42, 41, 40, 39, 32, 16... (New York Times)
先日オバマ次期大統領がホワイトハウスを訪問し、大統領経験者4名と会談するというイベントがあったのですが、それをユニークな形でアレンジしたもの。オバマ氏がこれまで言及していたり、影響を受けたと考えられる歴史上の米大統領の姿を配し、マウスオーバーすると彼らの関係を解説する文が浮かび上がるという仕組み。オバマ氏は決して過去とは無関係ではなく、こうした大統領の影響や遺産の上に行動していくのだということが印象づけられるページです。
こうしたマルチメディア対応、いったい New York Times の中でどんな位置に置かれているのだろう?といつも関心を抱いていたのですが、それに答えてくれる記事がありました:
■ The New Journalism: Goosing the Gray Lady (New York Magazine)
New York Times 内にある"Interactive Newsroom Technologies"グループと、R&Dセクションについて。新聞社の中に「テクノロジー」や「R&D」などといった名前が付く部署があることも驚きですが、それ以上に興味深かったのは「技術者であっても New York Times の一員だ」と認識され、ジャーナリストと技術者が同じレベルで協力して働いている姿が描かれている点。決して技術者がジャーナリストの下の地位に置かれ、彼らに仕えているという構図ではありません。またこうした新勢力に対する社内の抵抗は、急速に薄れつつあるようです。
先日「New York Times が米議会の情報が取得できるAPIを開発・公開した」というエントリを書いた際、「もしかしたら21世紀の新聞社は、優秀な技術者を有して有料/無料のウェブサービスを開発していく企業になるのかもしれない」という感想を書きましたが、既に New York Times はこの姿を実現しつつあるのではないでしょうか。新聞社の存在意義は情報を伝えることであり、新聞という紙を発行することではありません。だとすれば、「インターネット時代の情報の伝え方」を技術者/ウェブデザイナー達と共に追求するという New York Times の姿勢は、非常に理に適っていると思います。もちろんそこには「ページビューを稼がないと広告が売れないので、コピペで転載できないコンテンツを作らねば」という計算も存在していると思いますが。
どんなビジネスモデルが展開されるかどうかは別の話として、新聞社がこれからの時代に生き残る道の1つは、New York Times のようにジャーナリストと技術者が融合することではないでしょうか。単に「取材で得られた内容」という素材を提供するだけでは、それを美味しく料理してくれる専門家ブロガーやまとめサイトの方に客が流れるのは当然の話です。最近日本では、新聞社とテレビ局が関係を強化する方向に向かっているようですが、新聞社が向くべきなのは同じオールドメディアではなく、IT/ウェブ系ベンチャー企業だと思います。