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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

マルコム・グラッドウェルというと、“ティッピング・ポイント”(邦訳『急に売れ始めるにはワケがある』)を思い出される方が多いと思いますが、彼の最新作が発売されたので読んでみました。今回のテーマは「何が成功をもたらすか」で、タイトルは"Outliers: The Story of Success"。直訳すれば、『特出した人々――成功の物語』といったところでしょうか。

「何が成功をもたらすか」と書いてしまうと、ありがちな自己啓発本と思われてしまうかもしれませんが、本書は「成功するためには○○をせよ!」というようなテクニックを教えるための本ではありません。むしろそのようなテクニックというか、個人の資質・努力でどうにかなる部分を超えた領域にも焦点を当てるのが本書の目的。ごく簡単にまとめてしまうと、「成功をもたらすもの」として次の4つのポイントが挙げられています:

  1. マタイの法則
    チャンスを与えられた人物はスキルを伸ばし、それがさらなるチャンスを呼び込むことにつながる。従って最初は些細だったものが、最終的には圧倒的な能力の差となって現れる。
    (※マタイによる福音書25章29節に「だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」という一節があることから)
  2. 1万時間ルール
    成功した人物の多くは、成功した領域で1万時間を超える経験を積んでいる。ビートルズでさえも、実は十分な下積みを経験していた。
  3. チャンスとそれをつかみ取る能力
    たとえどんなに能力が高くても、それを伸ばしたり活かしたりする場がなければ成功できない。周囲の環境からチャンスが与えられるかどうか、与えられたチャンスをつかめるかどうかが重要。
  4. 社会的・文化的背景
    上下関係を重視する文化や、ハードワークを重んじる文化など、世界には様々な文化があり、誰もがその影響を受けている。生まれ育った場所からどんな影響を受けたかによっても、個人の行動は左右されるが、それを認識することで克服は可能。

以上の4つのポイントを証明するものとして、カナダのホッケーリーグ、ビートルズ、常人離れしたIQを持ちながら成功できなかった Chris Langan という男、大韓航空など様々な例が登場します(若干「それって自分の主張に合う事例だけを集めてきたんじゃないの?」という気がしないでもないのですが、科学雑誌に提出された論文というわけでもないので、その議論はちょっと脇に置いておきたいと思います)。これらの考察を通じて、マルコム・グラッドウェルが到達した結論。それは以下のようなものでした:

Everything we have learned in Outliers says that success follows a predictable course. It is not the brightest who succeed. If it were, Chris Langan would be up there with Einstein. Nor is success simply the sum of the decisions and efforts we make on our own behalf. It is, rather, a gift. Outliers are those who have been given opportunities -- and who have had the strength and presence of the mind to seize them.

特出した人々から学べるのは、成功は予測可能なコースを描くということだ。最も頭が良い人間が成功するのではない。もしそうなら、Chris Langan はアインシュタインと肩を並べていたことだろう。また、成功は単に、個人が行った判断や努力を積み重ねたものでもない。それはむしろ、贈り物のようなものだろう。特出した人々とは、チャンスを与えられた人間、そしてそのチャンスをつかむ力と意志を有していた人間なのである。

さて、彼の説がどこまで通用するかという議論はさておき、この主張をどう役立てれば良いのか。ぱっと読むと、彼の意見は非常に気分を滅入らせるものです――例えば今日のような経済危機といった悪い環境の下では、いくら努力しても成功できない場合があると言うのですから。また親や社会、子供の頃に受けた教育といった今からではどうしようもない要因についても重視していますし、「1万時間ルール」を達成するだけでも5年や10年はかかります(これまで長年下積みを経験してきた分野でない限り)。その意味で本書は、書かれているアドバイスを役立てようとする前に「やっぱり成功するのは簡単ではないなぁ」と幻滅させる本に違いありません。

しかしその一方で、個人的には「成功にはずば抜けた先天的資質は必要ない、だから誰でも等しく成功できる確率を持っているはずだ」というメッセージも強く感じました。あのビル・ゲイツも、ビートルズも、確かに素質はあったのだろうけど、地道な努力と「ちょっとした幸運」によって成功を手にした――ならば(現在の自分にとって)チャンスが得やすい場所に身を置き、チャンスが目の前に現れた時にすかさずつかめるような努力をしておけば良いのではないか。あるいは全く別の手段を思いつく方もいらっしゃると思いますが、たとえ僕のように「若い」とは言えない人々にとっても、本書は日々の行動へとつなげられるアドバイスを与えてくれると思います。

それからお子さんをお持ちの方にとっては、この本は「自分は子供にチャンスを与えられるような、チャンスをつかめる能力を与えられる親になれるか」というまた違った意味で厳しい疑問を投げかけてくる一冊だと思います。というわけで、僕にとっては二重の意味で読むのが辛い内容でしたが、読んでみて間違いなく「今年の一冊」に入れておかなければと思わせる本でしたよ。

アキヒト
コメント
kouta 2008/12/29 22:20

今年のサンフランシスコでのSalesforce.comのイベントに氏がゲストで登壇し、この本の内容に沿った講演をしました。

これからを担う子供たちに対し、チャンスを摘まないような社会を生み出すのが、我々の役目なのかなぁと思わせる内容でした。

アキヒト 2008/12/31 07:53

おぉ、Salesforce.com のイベントで講演されていたのですね。それは観たかった(ネットに落ちてるか探してみます)。

> これからを担う子供たちに対し、チャンスを摘まないような社会を生み出すのが、我々の役目

仰る通り、この本から同じようなメッセージを強く感じました。成功が「ギフト」なのだとしたら、僕ら親の世代が「贈り主」にならないといけない、そんな風に感じています。


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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