クラウド化するコンビニ
『公共空間としてのコンビニ 進化するシステム24時間365日 (朝日選書 847)』を読了。これまたお馴染み、書店で平積みになっていたのを何となく買ってみたもの。コンビニ業界への転職を狙っている、とかいう意図は無いですからね。
何となく買ってみたものとはいえ、非常に楽しめました。タイトルの通りコンビニ=コンビニエンスストアについて研究した本ですが、単なる業界研究では終わらず、「ある店舗を24時間定点観測する」「コンビニが日本文化に及ぼした影響を考える」など幅広い視点からコンビニとは何かを考えています。現在の日本における「コンビニという現象」を捉えるのに、最適な本の1冊ではないでしょうか。
※ただ1つだけ気になったのは、「コンビニが日本人の生活習慣、そして文化までも狂わせたのではないか」という仮説。確かに画一的な商品や24時間営業といったものが、日本人の嗜好や習慣を変えていった面は否めません。しかし個人的には、「卵とニワトリ」のような側面がある、つまり「日本人の生活スタイルが変わるのに合わせてコンビニという業態が成長したのだ」という説明も可能なように感じています。少なくとも、ここ数十年で日本に生じた様々な社会的・文化的変化の原因を、コンビニだけに求めるのは無理があるでしょう。
ところで、先日個人ブログの方で「クラウド・コンピューティングをコンビニに喩えられないか」という雑文を書いたのですが、実はこの本を読んだことがきっかけでした。しかし読了してみて改めて思うのは、「コンビニの方がクラウド化していると言えるかもしれない」ということです。
ご存知の通り、現代のコンビニは様々なモノ・サービスの提供を可能にするプラットフォームとなっています。物流だけでなく情報網、集金システムが備わっているおかげで、例えば
- 公共料金の支払い
- 住民票の受け取り
- 家事代行サービスの申し込み
- 通販で買った荷物の受け取り
- クリーニングの申し込み・受け取り
などなどといったサービスが実施されるようになってきているわけですね。さらに最近では、地方自治体がコンビニに地域貢献(災害対策や治安対策)、子育て支援などを要請していることが本書で紹介されているのですが、これもコンビニの「公共的サービスすら実行可能なクラウド」としての力を証明していると言えるでしょう。
この世に絶対不変なものはありません。かつてスーパーが地元商店街のライバルとして、そしてコンビニがスーパーのライバルとして登場したように、次世代の小売業の主役はコンビニ以外の何かになる可能性も高いと思います。しかしコンビニというシステムが作り上げた、その上に様々なサービスを載せることのできる「クラウド」は、姿を変えながら生き残っていくのではないでしょうか。例えばセブン・イレブンが自社での商品開発・提供することを放棄し、モノやサービスの提供は完全に他の企業に任せ、料金を取って自らはクラウドの運営に専念する……という未来像もあり得るのかなぁなどと想像してしまいました。ともあれ、本書のタイトルの通り「公共空間」としての役割をコンビニが演じるという流れは、今後もしばらく続きそうですね。