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30過ぎたオッサンが、『あたし彼女』を読んでみた。

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はいはい、タイトルで引かない引かない。話題になっているものは、何はともあれ中を覗いてみないと。というわけで、第3回日本ケータイ小説大賞を受賞した、『あたし彼女』を読んでみました。

あたし彼女

できればURL(http://nkst.jp/vote2/novel.php?auther=20080001)をケータイに送信して、携帯電話の画面から読んでみて下さい。だいぶ雰囲気が変わることに気づくはずです。ケータイ小説は、当然ながら携帯電話から読まれることを意識して書かれているわけですから、こちらの方がより正しい評価を下せるでしょう。

***** 以下、ネタバレを含むのでご注意下さい *****

結論から言うと、個人的には評価されて良い作品だと感じました。確かに内容はセックス、妊娠、中絶、流産と、いわゆるケータイ小説的なエピソードに溢れていて、眉をしかめる方が多いでしょう。しかも物語の冒頭は、意図的に(と僕は感じたのですが)主人公が「はすっぱな女」として描かれ、あまり賛同できない言葉が続きます。ここだけを読んで生理的に受け入れられず、しかもケータイ小説特有のスタイル(一文が短く、改行が多い。場面描写は少なく、主人公の独白が続く)に驚き、「最初の2~3ページで読むのを止めた」という方も多いようです。

しかし主人公が倫理的に問題のある人物だからといって否定していては、ピカレスク小説などは成り立たないでしょう。前述のように、僕は主人公がはすっぱな女として描かれているのは狙いだと感じ、物語の中に出てくる「純愛的なもの」を引き立たせる演出のように思いました。まぁそうなると、「いろいろ悪いことしたけど、やっぱり愛だよね」というお決まりのパターンを繰り返しているに過ぎない、という批判が可能になるのですが。しかし物語の類型は限られた数しかないと言われますし、物語の流れに目新しさがないというのは、作品の評価をゼロにする要素にはならないのではと思います。

実際、冒頭で過激なことを言っていた主人公が見せる「意外な表情」は、非常に上手い形で挿入されます。人生に対して虚無的なことを言っているのに、彼氏が作ってくれる飲み物一杯に無邪気に感動したり。おそろいのブレスレッドが欲しいのに、それを素直に口に出せなかったり。いや、ツンデレが好きな方には、「萌える」要素が満載だと思いますよ(笑)。その辺りの心の動き(文章だけでなく、改行や空白の取り方なのどリズムも含めて)がリアリティを感じさせて、実在の女性が書いているメールを読んでいるような気分にさせられました。

もちろん、これが既存の文学を置き換えるものになるとは思いません。「小説」と名付けられていますが、先ほども「メールのよう」と形容した通り、ケータイをベースにした新しいコンテンツが生まれているのだと考えるべきでしょう。従って、「こんなの小説じゃない」「文章が稚拙だ」という批判は少しずれているのではないでしょうか。少なくとも作品全体に目を通し、これが生まれてきた背景を考えてみるぐらいの姿勢があっても良いと思います。

作者の kiki さんは、あとがきで以下のように書かれています:

書いていて
違う…こんな事書きたい訳じゃない
やっぱりこんなの面白くないなぁと
途中
削除のボタンを見つめた事もございました。

(中略)

読みやすいお話を書きたかった
分かりやすいお話を書きたかった
だけど
書いて気付いた
感情伝わってる?
はてしなく不安がつのりました。

少なくとも『あたし彼女』は、読者にメッセージを伝えようという意気込みに満ちた作品だと思います。僕はターゲットとなった読者層には含まれていない人物ですが、頭ごなしに否定してしまう気にはなりませんでした。

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