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東京都、逆襲

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自分の選んだ自治体に寄付をすると、住民税が減額されるという「ふるさと納税」制度。念頭に置かれていたのは、「仕事や進学で東京に行ってしまった人々に寄付をしてもらうことで、東京と地方との税収入格差是正につなげる」という思いだったはずですが、「敵」である東京都がふるさと納税制度の活用に乗り出しているそうです。

以下、今朝の朝日新聞に掲載されていた、「東京都も『ふるさと納税』」という記事からの引用です:

「募金に協力いただきますと、税制上の優遇措置が受けられます」

東京都はいま、東京湾のごみ埋め立て地の緑化や街路樹の倍増に向け、「緑の東京募金」獲得に必死だ。3年間で8億円を目標に掲げており、これまでに個人や企業から2億円余を集めた。

加速するために思いついたのが、地方税法の改正で今年5月に始まった「ふるさと納税」制度の活用だ。自分が住んでいない自治体に寄付をすると、寄付額から5千円を引いた額が住んでいる自治体の住民税から控除される。

これまでインターネットを使ったクレジットカードによる個人募金は166件あるが、山形県や滋賀県など都外からの寄付が意外と多く、約4割を占めていた。ふるさと納税制度の活用で、地方からの寄付にも期待する。

とのこと。つまり東京都のための募金活動を始めてみたら、都外から寄付してくれる人が意外に多かったので、「ふるさと納税制度で東京に寄付をする人もいるんじゃないか?」ということになったわけですね。

「地方から東京に出て行く人が多い」ということは、逆に言えばそれだけ東京とのつながりを持っている人が地方にも多くいる、ということになります。東京での仕事や勉強を終え、出身地に帰った人々。あるいは身内に東京に出て行った家族がいる人々。彼らにとってみれば、東京は「ふるさと」とまでは言えないまでも、「どうなろうが知ったこっちゃない」という存在でもないでしょう。どうぜ取られる税金ならば、一部を東京に回して欲しい――そう考える人も少なくないと思います(特に自分の住んでいる町の自治体で、税金のムダ使いや不正流用が発覚したような場合には)。

この東京都の意外な行動に対して、関係者がこうコメントしています:

関係者の受け止めはどうか。総務相の諮問機関「ふるさと納税研究会」のメンバーだった水野忠恒・一橋大大学院法学研究科教授(租税法)にとって、今回の都の行動は予想外。しかし、どの地方自治体も寄付を集められる制度にした以上、都の活用を認めなければ不公平になるという。

そもそも東京都と地方の格差是正が目的だったのなら、もっと直接的な方法で実現しても良かったわけですよね(えげつなくするなら、何らかの形で東京だけに使用を禁止するとか)。様々な理由や政治的配慮があったのでしょうが、それを「ふるさと」というあいまいな言葉のついたオブラートのような制度で達成しようとした時点で、本来の目的を考えていた人々の負けだったのではないかと思います。何らかの制度を稼働させようとするなら、本当にその仕組みが目的を達成するように動いてくれるのか、仕組み上の欠点や外部要因によって違う動きをする恐れはないか、慎重にチェックしなければならないのでしょう。

逆に不利な制度を押しつけられたと思っている側にいる人にとっては、今回のニュースは「名前に騙されず、よく仕組みや反応を見直してみよう」というメッセージになるように思います。「ふるさと」ではないはずの東京都が、意外に地方からの寄付を受けていることを再発見したように、思いも寄らないところに解決法が眠っているのかもしれません。

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