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橋下知事、対立より協調を

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大阪府に橋下知事が就任して約一ヶ月。期待と不安、様々な声が交錯していることはご存知の通りだと思いますが、先日もこんな事件がありました:

橋下知事が若手職員を対象に初の朝礼 女性職員が知事に反論 (MSN産経ニュース)

30歳以下の若手職員を集めた朝礼で、女性職員が知事に反論する一幕があったというもの。ニュースでも大きく取り上げられましたので、ご覧になった方も多いと思いますが、問題は以下の部分:

さらに、橋下知事は「始業前に朝礼をしたかったが、超過勤務になるのでできなかった。たかだか15分の朝礼ができないというなら、勤務時間中のたばこや私語も一切認めない」と発言。

 これに対し、後方で聞いていた女性職員(30)が突然立ち上がり、「どれだけサービス残業をやっていると思っているんですか。知事は不満があればメールを送れといって、職場を分断している」と反論した。

このやりとり、映像で見るとより緊迫感があります(いつまで残っているか分かりませんが、YouTube で確認できます)。橋下知事がかなりきつい口調で不満を述べたのに対し、女性職員も感情をあらわにして反論する、という感じでした。

始業前に15分間の朝礼を命じることは是か非か。ネットでも様々な意見が飛び交っていますが、個人的には判断できる立場にないので(もしサービス残業が横行しているなら橋下知事は現場をよく知らずに発言していることになりますが、普通の会社の話であれば15分程度早く来て欲しいという依頼を「超過勤務」で突っぱねるのも問題でしょう)、ここでは立ち入りません。それよりも問題に感じるのは、橋下知事の姿勢です。仮に知事の側が正しいのだとしても、余計な対立を招いてしまってはいないでしょうか。

以前 NHK の番組に出演した際にも、ふとした発言が原因で知事とアナウンサーが対立する、という事件がありました。これもどちらが正しいという判断は避けますが、他にも同様な事件があるようですし、橋下知事は感情が前に出てしまうタイプなのかもしれません。そういった「熱い部分」が支持されて、大阪府知事に選ばれたという面もあるでしょう。

しかし本当に自分が正しい場合でも、「自分が正しいのだ」という思いを全面に立てて突っ走ってしまうのは、果たして賢明な態度と言えるでしょうか。スタンフォード大学のロバート・サットン教授による本"The No Asshole Rule"の中に、こんな箇所があります:

Jerald Greenberg studied three nearly identical manufacturing plants (which management chose at random) instituted a ten-week-long, 15% pay cut after the firm temporarily lost a major contract. In one plant where the cuts were implemented, an executive announced the cuts in a curt and impersonal manner and warned employees, "I'll answer one or two questions, but then I have to catch a plane for another meeting." In the second plant, the executive gave a detailed and compassionate explanation, along with sincere apologies for the cut and multiple expressions of remorse. The executive then spent a full hour answering questions. Greenberg found fascinating effects on employee theft rates. In the plant where no pay cuts were made, employee theft rates held steady at about 4% during the 10-week period. In the plant where no pay cuts were done but explained in a compassionate way, the theft rate rose to 6%. And in the plant were cuts were explained in a curt manner, the theft rate rose to nearly 10%.

Jerald Greenberg はある企業の保有する工場の中から、同じような工場3つをランダムに選んで調査を行った。その企業は大型の契約を失注し、一時的に15%の賃金削減を実行していた。賃金削減が実施された工場に出向いた際、経営陣はぶっきらぼうな態度でその決定をアナウンスし、「別の会議に出るために飛行機に乗らなければならないので、2・3の質問にしか答えられない」と述べた。一方別の工場では、経営陣は詳細な説明を心のこもった態度で行い、賃金削減について陳謝した。また1時間たっぷり使って、従業員からの質問に答えた。Greenberg が従業員による盗難の発生率について調査したところ、驚くような結果が得られた。賃金削減が行われなかった工場では、盗難率は4%で一定だった。一方賃金削減を行い、それを十分に説明した工場では、盗難率は6%だった。しかし賃金削減が冷たい態度で説明された工場では、盗難率は10%近くまで上昇した。

もちろん上記の例で、「盗難率が上がったのは会社のせいだ」などと言うつもりはありません(何にせよ盗みは犯罪行為であり、盗みを行った人物は許されません)。しかし社員の感情を害し、余計な問題を引き起こしてしまったのは事実でしょう。「社員は言うことを聞いていれば良い、だから上司はとにかく命令していれば良い」などと評価できるでしょうか?

組織の運営は、誰かと勝ち負けを競うゲームではありません。自分の議論の正当性を認めさせれば、組織の生産性が上がるというわけでもありません。もちろん「おかしい」と感じた部分を正すことも重要ですが、対立を招くようなやり方でではなく、できるかぎり協調を守った形で行うべきではないでしょうか。橋下知事が今のような「売り言葉に買い言葉」を続けているうちに、本当に組織のメンバー全員が力を合わせなければならない時に、組織力を活かすことができなかった――などという事態にならないように願っています。

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